めっきり寒くなってきた。枯葉が舞い、物寂しい季節。冬に差し掛かり、年末に向けて仕事が忙しく、生活に虚しさを感じると何故か思い出す音楽のフレーズがある。それはエリック・クラプトンの「Meet Martin Riggs」個人的にバディ映画の最高峰だと思っている。(反論はしないでください)
思い出してDVDを取り出した、4本も続いたシリーズの1作目。
リッグス刑事(メル・ギブソン)とマータフ刑事(ダニー・グローバー)の凸凹コンビの痛快アクション。
今観ても、スッキリするし、コメディ部分にホッコリできる。
中々、良くできているのだ。
1 人種を超えたコンビ
古いところだと「夜の大捜査線」のS・ポワチエとR・スタイガー、「48時間」のN・ノルティとE・マーフィーの異人種バディ映画があるが、この2人の間には人種差別の意識が感じられない。
ベトナム戦争を潜り抜けてきた兵士であるリッグス刑事から決して「ニガー」の言葉は出ない。共に戦った同じ国の仲間に敬意を払っているかのようだ。
マータフ刑事も、何の躊躇もなく、黒人家庭である自宅にリッグスを招き、家族に紹介する。
やり方の違いから揉めたりもするが、同じ犯罪を憎む刑事であり、庶民の味方であり、仕事仲間として受け入れる協力性が感じられる。
2 年齢を超えたコンビ
年齢差についても差別的なものが無い。
リッグスはマータフよりかなり若いが、ベトナム戦争では陸軍特殊部隊員として死線をくぐりぬけた経験があり、拳銃射撃と格闘の力量は極めて高い。
若さの象徴であるが、マータフに優しい訳ではない。
飛び降り自殺未遂の男と飛び降りたリッグスは「何がいけない⁉︎」と先輩マータフに食ってかかり、犯人追跡においては「走れ!」と要求する。
年寄り扱いせず、対等な立場の発言の数々。決してベテランのプライドを傷つけたりはせず、1人の同僚として扱っている。
3 人間味溢れるコンビ
人種差別こそないが、従来のハリウッド映画と経済的な逆転とでもいうのだろうか?
生活面では大いに差のある2人の関係が面白い。
3年前に愛妻を事故で亡くして以来、自暴自棄な生活のリッグス。
トレーラーハウスで寝起きし、全裸のまま冷蔵庫直行してビールを飲み、煙草をふかす。所謂白人の屑な生活。
(引き締まったお尻が当時話題となった)
亡き妻を思い出しては銃口を口に突っ込み、自殺未遂を図る。
自分の境遇を呪うリッグスの姿は、まるでスラムの黒人のようである。
「マッド・マックス」でのクールなキャラクターとはイメージを一掃し、屈折した深みのあるメル・ギブソンの演技が魅力である。
対してマータフ刑事は、文句を言いながらもリッグスのやり方に合わせて行く器の大きさ。
奥さんの料理の不味さに不満をこぼしながらも、家庭を愛するマイホームパパが板に付いている。
年頃の娘リアンが露骨にリッグスに色目を使うのを心配しながらも、いざ誘拐された娘を躊躇いもなく救出に向かう勇気は家長としての威厳を保っている。
それまでのハリウッド映画では明らかに白人男性の役である。
この逆転の構図が面白く、アメリカもやっと人種の表現が自由になったかと思わざるを得ない。
そしてこのギャップ自体がコメディであり、笑いを生むのだ。
本作がリッグスの自殺願望や、売春婦の飛び降り自殺、その背景にCIA特殊部隊のOBたちによるヘロイン密輸組織の暗躍という文章をするとハードなストーリーなのに、極端に殺伐とせず、緩急が付いた展開になっている大きな要因は、暖かなマータフ家の影響が大きい。
妻が生きていれば、自分もこんな風に…
リッグスの頑なな心が溶けてゆく。
マータフがリッグスに「俺がついている」と言うシーンは密かに泣ける。
最初はかみ合わなかったマータフとリッグスが犯罪に立ち向かいながら信頼関係を築いて行くところはいかにもアメリカのバディ映画の王道。
ラストに2人が同時にシンクロして敵のジョシュア(ゲイリー・ビジー)を打ち抜くスカッとした勧善懲悪に、この信頼関係が繋がってゆくのだ。
事件後のエピローグもいい。
妻の墓参りに行ったリッグスは「もう少し待っていてくれ」と言い、生きる道を選ぶ。
その後、マータフ宅を訪問し、リアンに「この弾を渡してくれ。渡せば分かる」と、自殺用の弾を渡す。
(ここで終わってたら、リッグスがカッコ良すぎる。しかし、ギャグで終わる所が微笑ましい。この2人をもっと観たい、続編が観たいと思わせる心憎い演出。)
マータフが水臭いと、家のクリスマスパーティーに立ち寄れと誘う。マーティンは愛犬・サムを連れて邸内に入るが、マータフの家の猫と盛大な喧嘩を始めて、賑やかに終わるのだ。
誰かと一緒に新年を過ごせる幸せ。
喧嘩出来ることも幸せの一部だとリッグスの孤独を埋める微笑ましいエピローグ。
生きているっていいなと、最後には人間の暖かさを感じさせてくれる。
4 アクション
この映画からハリウッド映画のアクションは派手になったと記憶している。
高所からのダイブ、カースタント、家屋の爆発、銃撃戦に肉弾戦。
ストーリー上、必要と思われるアクションを全て注ぎ込んだ印象。
広い場所やセットではなく、それを市街地で全て行ったのがこの映画のライブ感を生んでいる。
メル・ギブソンは「マッド・マックス」ではアクションがカースタント中心だったが、本作では走ったり、格闘したりと肉体を駆使していて、フレッシュな若さを感じた。(ハリウッドでのやる気を)
ジョシュアがヘリで襲いかかり、リッグスが対抗してヘリに向けてベレッタの弾丸を全て撃ち尽くすキレのある動きが特にお気に入り❗️
拷問を受けた直後にも関わらず、ジョシュアの乗ったバスを半裸・裸足で追いかけるパルクールにも似たバイタリティ。
最後は泥まみれで関節技を決める野性味溢れる肉弾戦。
同年公開の「ダイ・ハード」のブルース・ウィリスはアクションの間、セットの中を出ない。
リッグスがアクション映画のインフラを招いた功績は高い❗️
5 耳に残るシブい音楽
デヴィッド・サンボーンのサックスとエリック・クラプトンのギターが音楽にフューチャーされていて、作品に良いスパイスを利かせている。
80年代当時の音楽業界はMTVの世界的ブームが起こり、随分と日本でもアメリカのヒット曲が聴かれたものだが、当時の明るい空気が本作でも随所に窺える。
Meet Martin Riggs
ギターの神様、エリック・クラプトンの泣きのギターが冴えるこの曲のフレーズを、寒い季節に思い出す。
この映画もクリスマスの時期が舞台だからか?この曲を思い出すと、家路を急ぎたくなる。
公開から30年。リッグスに近かった私の歳もすっかりマータフに近くなってしまった。
マータフほど立派な人間ではないが、家族を大事にしなくてはと、この季節に思うのだ。