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少女は卒業しないのtkykのレビュー・感想・評価

少女は卒業しない(2023年製作の映画)
4.5
桐島に続く青春映画の傑作だった。役者陣の自然すぎる演技と本作が持つテーマの両方において青春映画の水準として非常に高かった。
本作に対して自分が持った最初のイメージは「河合優実の主演作」というものであったが、結果として彼女以外の主要な3人の役者にも強烈なインパクトを受けた。特に中井友望は非常に素晴らしかった。

本作のテーマはまさに「卒業」であるが、それがタイトルとどう関連するのかを考えることは非常に有意義だと思う。
卒業とは一番身近な「終末」だと言える。終末を迎えると今までの自分は無くなり、新たな自分になる。(一番分かりやすいのは死だと思う)多くの場合は新しい自分には今までの自分は含まれていないだろうが、卒業に関してはそうではない。式が終わっても今までの思い出や人間関係は僅かに自分の内に存在している。そういった過去を内包しながらも新しい存在へと変わりもするという点が卒業の特性である。
本作はまさに過去と未来が均衡しながら変化へと進む4人を描いている。各々が高校3年間の自分や自分の人間関係を振り返りつつも新しい一歩を進む。その間のささやかでありながら確実に存在する葛藤がとても高校生らしく、誰もが経験したであろうものである点が本作を普遍的な傑作へと昇華させていた。

肝心の河合優実であるが言うまでもなく今回もとても素晴らしい演技だった。彼女が出る場面は意外と少ないが、それでも彼女が映る場面は山城まなみを存在全てで体現しており、どういう人物であるかが非常にハッキリとした輪郭を持って浮き出ていた。
その他の3人も実在する高校生としか思えない自然さがあった。上京を控え彼氏との関係がギクシャクしている後藤も、卒業ライブを控えた神田も、卒業式前日までクラスに居場所が無い作田も全員が自分や自分の人間関係を振り返り、卒業を機に新しい自分を築こうとする。その姿は全く派手ではないし、誰もが経験しそうなものであるが、それでもその中に劇的な変化がある事がはっきりと伝わってきた。

全ての登場人物に優しい視線が込められており、作品が終わった後の世界に対して思いを馳せる事ができた。

河合優実と藤原季節が出演している青春映画という点でも過去を内包しながら未来へと進むというテーマ性でも『佐々木、イン、マイマイン』と共通しており、とても素晴らしい作品だった。
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