チッコーネ

インスペクション ここで生きるのチッコーネのレビュー・感想・評価

4.0
監督の自叙伝映画で、海軍という過酷な環境に自ら足を踏み入れたよるべない青年の姿を描く、ゲイ映画の中でも異色の一本。
しかしそうするしかなかった彼の境遇は駆け足の描写でも充分に伝わり、深い説得力があった。

「先輩が黒と言えば、白も黒」という世界は、強固な縦社会かつ全体主義が横行していたひと昔前の日本を知る者にとって既視の感ありだが、「自由の国」アメリカでも、軍隊に入れば大同小異なのだと改めて驚かされる。
しかし監督の話術はあくまでも客観的、退路をぶったぎる上官に内在する「思惑」も、余すことなく描き切っていた。
また同性だらけの空間に押し込められた同性愛男性の感情や身体的反応を、自然にインサートする手腕は、非常に洗練されている。

監督の母親は本作の撮影前に亡くなったそうで、ついに受容を得られなかった彼の心中を慮ると、胸が痛む。
しかし過酷な訓練を共にした仲間たちが「肉親より素直に彼のセクシュアリティを受け入れる」という描写には、希望と感動が満ちている。