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彼岸花 ニューデジタルリマスターのzhenli13のレビュー・感想・評価

4.1
神奈川近代文学館で本日最終日の「小津安二郎展」を観てきた。行ってよかった〜!大変充実した内容の展示で、気づいたら三時間以上居た。

フィルムが現存しない初期作品は、宣伝広告などでその様子を垣間見ることができる。デビュー作『懺悔の刃』の併映が清水宏『炎の空』という作品で、これも現存しない。うーーん観たかったなあ。特にこれらの貴重な資料であろう浅草にあった電気館、帝国館が発行していたパンフというか上映プログラムの掌サイズ小冊子が圧巻だった。デビュー作から数年の小津作品が掲載されている。最初は頁の半分程度だったのが『東京の合唱』あたりになると二段使いで二頁分は確保されている。
また「いま注目の映画監督」として小津安二郎とともに清水宏、石田民三も紹介されている記事もあり(小津監督が一番目立つようにレイアウトされている)、彼らの映画を敬愛する者としては嬉しい並びである。

フランスで公開された際のポスターもあり、鴈治郎がどどんと配された『小早川家の秋』のデザインは意表を突いててよかったものの、60年代はまだ内容に関わらずいかにもジャポニズムなデザインのものもある。しかしここ数年のデジタル修復版でのポスターは作品スチールと日本語タイトルを上手く活かしたデザインとなり洗練され、過去と現在の認知度の違いをはかることもできた。『東京暮色』のポスター欲しい…

小津監督が描く絵がまた素敵で、ほんとにセンスに溢れた人だったのだなあと。自身でデザインしたという丹塗りの文机もとても素敵だった。佐田啓二の娘の中井貴惠へ送った葉書の絵なんか最高。佐田啓二やその家族、小津安二郎が当時流行っていたスーダラ節を踊っているという絵で、茂田井武ばりの味わい深いデフォルメと鮮やかな色遣いが大変楽しい。
「芸術のことは自分に従う」という小津監督の言葉、よほど自分の感覚に自信があったというか天性の美的感覚の持ち主だったのだろう。

そして小津監督の原点は三重の宇治山田に住んでいた中学生時代に観た数々の海外作品で、その経験が無かったら映画監督にはなっていなかったと自身が語っていたよう。地方の名画座やミニシアターは悉く瀕死、イオンのシネコンしかなくなった現在よりもはるかに文化的だったのではないか。

展示を観ていたら小津作品を観返したくなった。


で、帰宅してさっそく『彼岸花』のソフトを出してきた。
Blu-rayのジャケットにもなっている有馬稲子、山本富士子、久我美子の三人が一堂に会するスチール、実際こういうシーンは映画には無い。ここで久我美子の手に持たれている湯呑みが今日の展示にも出ていて、欲しいなあと思った。

小津監督初のカラー作品であり、ショットのなかに必ず赤いものが映っているという有名な話があり、ここで象徴的なのは赤い琺瑯のやかん(これも展示にでていた) ではあるものの、赤が入らない例外のショットはある。特に佐分利信と佐田啓二が初めて邂逅するシーンでは赤が入れられていない。不安や緊張、特に佐分利信のその心情が現れるショットでは赤が入らないよう。

逆に赤を惹き立たせる緑、ビリジアンの緑というより青緑、ブルーグレー系の色が随所に見られて今日はそこに目を奪われた。
田中絹代の背後にある姿見に置かれた透明瓶の化粧水はびっくりするくらいの群緑色。久我美子が勤めるバーも群緑色の壁面、黒いワンピースの久美子は鮮やかな碧玉色のネックレス、蒲郡でのクラス会で旅館の襖は白群緑、などなど。
ラスト近くの山本富士子は黒群緑色と黒の格子縞の着物に辰砂の帯で、浪花千栄子は黄士の着物に臙脂の帯。その二人が座卓でやや遠近に座るとその水平線のコントラストが際立ちほとんどキュビズムである。

かたや有馬稲子はほとんどが灰色系の服で、大きめでやや縦長のケリー型バッグ(素敵)も真っ白。色のものを身につけない。
登場シーンでの濃灰色のタイトなワンピースは白い丸襟に小さな白い釦が並んでいてとても素敵。灰色のワンピースにジーン・セバーグばりのベリーショート、真っ赤な口紅の彼女はとてもモダンで、緒川たまきを髣髴とさせる。彼女が佐田啓二のアパートでこれまた君玉の扉の色に囲まれて画面に収まると大変惹き立つ。
構図の中に収まる水平線をなるべく一致させる小津監督のやり方でいうと、嫁入り前夜の家族の晩餐で注がれたバヤリースやワインの線がすごい。障子の格子やほかの器の液体など各所で水平を一致させていて、気が狂いそうである。

という具合に構図の中にある色や水平線から目が離せなかったが、そればかり観てたわけではない。
たとえば佐分利信の家にタクシーが到着するショットが二度出てきて、一度目は浪花千栄子で、二度目は山本富士子がタクシーから降りてくる。その構図は『淑女は何を忘れたか』の斎藤達雄の邸宅を髣髴とさせるし、そこを訪れるのは浪花千栄子らと同じく関西弁の役の桑野通子であった。

また田中絹代と佐分利信との会話切り返しのシーンで彼女はつねに背景の柱が串刺し(垂直物が頭に刺さって見える構図)になるかならないかの辺りに座らされている。ほかの役者と違い、彼女は割と姿勢を変える。そのことによりいつ串刺しになるのかという危うさがあり、それが田中絹代および物語における不安を表しているようにすら思える。

や、結局構図と色ばかり観てたのか。

https://filmarks.com/movies/20166/reviews/102947331
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