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坊っちゃんのodyssのレビュー・感想・評価

坊っちゃん(1953年製作の映画)
3.5
【原作を知っていると二倍面白い】

漱石の『坊っちゃん』の映画化。1953年のモノクロ映画。

坊っちゃんが池部良、山嵐が小沢栄、赤シャツが森繁久弥、たぬき(校長)が小堀誠、うらなりが瀬良明、野太鼓が多々良純、マドンナが岡田茉莉子。

原作を読んでいる人間は、原作との違いを含めて面白さを感じられるだろうが、今どきの若い人は『坊っちゃん』すら読んでいない人間が多いから、どうかなと思う。例えば主人公の手の甲に切り傷の跡があるのはなぜか、原作を読んでいないと分からないだろう。

原作では山嵐は独身かと思われる(少なくとも妻子は登場しない)が、本作品では妻帯者になっている。
また原作ではマドンナは生身では一度登場するだけで、あとは世間の噂話として出てくるだだけど、さすがに映画ではそうはいかず、ここではマドンナが坊っちゃんにプレゼントをくれたりする。また、最後に坊っちゃんからの忠告で、マドンナは赤シャツとの関係を見直すという筋書きになっている。

その赤シャツ役の森繁久弥が好演。彼が自宅でクラシック音楽(甘いヴァイオリン曲)を聞かせてマドンナの気を惹くシーンがある一方で、赤シャツに「田園交響曲」を聞かされた坊っちゃんが退屈してしまうシーンもある。(いずれも原作にはないシーン。)
つまり西洋クラシック音楽は帝大卒のインテリである赤シャツには身近なものだけど、「江戸っ子」であり物理学校卒の坊っちゃんにとってはそうではないことを示唆している。

というように、原作を知っていると二倍楽しめます。読んでいない人はこれを機に是非!
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