こなつ

桜色の風が咲くのこなつのレビュー・感想・評価

桜色の風が咲く(2022年製作の映画)
4.0
9歳で失明、18歳で聴力を失いながらも世界ではじめて盲ろう者の大学教授となった東京大学先端科学技術研究センター教授 福島智の生い立ちを描いた実話。

メディアを通して福島智さんのことは知っていたが、彼の想像を絶する生き様をこの映画の中で詳細に知り、胸に迫るものがあった。

映画では、母令子さんと共にひとつひとつ困難を乗り越えながら、人生を諦めず自分の可能性に挑戦して行く親子の壮絶な闘いの記録が鮮明に描かれている。

「光と音のない世界」とはどんなものなのだろう。日本には2万人以上の盲ろう障害の人がいるという。健常者にはなかなか理解することは難しいと思うが、生活の不自由さだけでなく、孤独で怖い日々をどれほど味わってきているのだろうとこの映画を鑑賞して強く感じた。

そんな息子の現実に苦しみながらも、何とか希望を、生きる歓びを見い出して欲しいと願う母の姿。「指点字」という画期的なコミュニケーションの手段を考案した母は、彼に人生の可能性を信じて欲しい、決して諦めないで欲しいと懸命に立ち向かう。

同じ3人の子育ての経験者として自分だったらと何度も自問自答する場面があった。自分のせいではないかと自分を攻める母。盲ろう者となった子供に自分は何をしてやれるのか、何でもしてやりたい、彼が生きる希望を捨てないでいてくれるなら。子供を持つ母の思いは同じだ。

主演の小雪の好演が光った。実際に子育てをしている彼女の母としてのまなざし、覚悟がヒシヒシと伝わってきて素晴らしかった。気鋭の若手俳優の田中偉登も智の持ち前の明るさと内面の苦悩を良く演じ切っていた。

「枯れ木にいくら水を与えても戻らないですよ」

辛く、怖く、現実を直視出来ない母親にデリカシーのない医者の言葉。藁をも掴む気持ちで病気と闘う家族に、温かさやいたわりが全く感じられない医者や看護師の態度。実話ならではの現実味あるエピソードに腹が立ったが、振り返れば自分もそういう経験が幾度とある。

これが実話でなければ、ただつくられた話として説得力がないだろう。福島智さんが大学で障害当事者の視点から人と社会のバリアフリー化を研究し、現実化させていく事が、障害当事者だけでなく彼らをひたすら支えてきている家族達にも大きな希望になると痛感した。
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