全身小説家の作品情報・感想・評価

「全身小説家」に投稿された感想・評価

人に勧められて観たドキュメンタリーではあるし、この作家のことも知らなかったけれど、どんどん引き込まれていく作品だった。虚構は作家にとっては得意中の得意だろうが、自分の人生自体を虚構に染め上げた井上氏には、呆れを通り越して天晴れとも思う。この男の人生そのものが虚構であった、それこそ天性の小説家ではないかと思う。
そしてきっかけはどうあれ大変面白いものを撮れた監督が、インタビューで飄々としていたことも興味深かった。
小一郎

小一郎の感想・評価

4.1
渋谷アップリンクの特集上映「挑発するアクション・ドキュメンタリー 原一男」にて鑑賞。作家・井上光晴のドキュメンタリー。井上がS字結腸癌を発症し死に至るまでの5年間の格闘を生々しい映像とともに追っているけれど、これは副次的なテーマ。メインは自らの人生を虚構、つまりフィクションとして生きた人の物語。

フィクション(物語)の役割とは何か。いろいろあるだろうけれど、現実で受け入れがたい困難にぶつかったとき、それを何とか受け入れていくための役割というのが重要なもののひとつだろう。最も根源的なフィクションは神話であり、聖書である。神話を持たない民族はない(多分)。人は自分の存在を確認し、生きていくために、フィクションが必要なのだ。

小説家は想像力をフルに働かせて、読者の心に響くようなフィクションを作り上げるのが仕事である。しかし、井上は自身がフィクションそのものだった。井上が発言や作品を通じて語る彼の履歴、体験は嘘だった。それはいかにも小説的で感動を呼ぶような嘘なのだ。

トークイベントで原一男監督から聞いたところによると、井上は「自分を貶める嘘はついても良い」と話していたという。確かに学歴詐称などを考えると、自らが有利になる嘘は非難を浴びても、不利になる嘘は笑い話で済むかもしれない。

そして井上は「実は嘘でした」ということは決して言わない。嘘はついたらつき通すのがポリシー。井上の嘘は人をダマそうとしているのではない。“井上光晴”というフィクションを形作るためのエピソードなのだ。

井上はとにかくモテる。映画では「声はいいなあ」と思うけれど、何でこんなにモテまくるのかわからないくらいモテる。そして男にも好かれているようなのだ。理由はよくわからないけれど、井上自身が他の人のことが好きで、サービス精神がとても旺盛ということが関係しているのかもしれない。

井上ははじめから自らの人生をフィクションにしようと考えて嘘をついたのではないだろう。人を笑顔にするよう、人がそうあって欲しいと思っているだろうことにあわせて、嘘をついたのだろうと思う。それが積み重なって“井上光晴”が出来上がっていったのだろう。

せっかく喜んでくれる人がいるのに、種明かしをするなんてヤボというもの。だから、ついた嘘はつき通す。それで迷惑がかからないのなら、嘘をばらしてガッカリさせるほうが意地悪というもの。

原監督によれば、井上の生まれ故郷で取材すると告げた監督に対し井上は「それは良いですね。ただし井上光晴の名前は出さないでください」と言ったそうだけれど、それは恥をかかないようにするためではなく、“井上光晴”というフィクションを守りたかったのだと思いたい。

癌が発覚してからドキュメンタリー撮影の依頼があり快諾した井上に、運命的なものを感じずにはいられない。フィクションの井上をリアリティーを追求するドキュメンタリーのカメラが追う。ドキュメンタリーにフィクションが必要なように、フィクションにはリアリティーが必要である。

自らが自身の嘘を告白することのなかったこのドキュメンタリーによって、自身がフィクションであるという人間の物語にリアリティーが高まり、フィクション“井上光晴”は作品として完成した。観客は小説を読むようにしてこういう生き方もあるのだと知り、人生の荒波への備えをひとつ蓄えることができるのだろう。

●物語(50%×4.0):2.00
・「ジャッキー」と隠語で呼ばれる方が真の主役との声も。こちらの方もなかなかのタヌキながら、原監督のプロデュース手法はお気に召さないという説が…。もう完成しているからかもね。

●演技、演出(30%×4.5):1.35
・井上光晴の虚構の風景を再現するモノクロのイメージシーンがあるけれど、ここに原監督の仕掛けた嘘が2つあります。「ここをわかってくれないと~」とのことなので、映画を観て気になった方は原監督に劇場で直接聞けば確実に、ツイッター聞けば高確率で教えてくれるのではないかと。

●画、音、音楽(20%×3.5):0.70
・「タブーこそ」な映像あり。
寂聴さんの弔辞に流した涙を返して欲しい 笑
なつ

なつの感想・評価

4.0
作家“井上光春”の生(性…笑)を描く長編ドキュメンタリー。
“虚構”と現実…。“虚構”とは何なのか?
個人的には、どえらい面白く興味深いテーマだったなぁ。
カオス過ぎるシーン、言葉の選択、目線、これが笑わずにいられるか。
私の特技は男女の関係性に気付くこと。
あっデキとる……と。
嘘言うな、私の目はごまかせんと。
そんなタイプの人間は本作を観て、面白い!とはまるようだ。
監督も言うてたけど、文学という高尚な世界でありながら、エロス…
この二面性も最高に面白いやんか!
万人受けはしないので、あしからず。
大作家先生より、瀬戸内寂聴の虚構が最もカオス(笑)
人間て、やっぱ凄まじい生き物だ。
原監督も凄まじき!
監督から来場者全員に本作の制作ノート書籍がプレゼントされた!感謝!
sawak

sawakの感想・評価

3.5
作家・井上光晴の晩年を追うドキュメンタリーだが、後半、取材が進むにつれ彼の「虚構」が明らかになっていき……。

小説家にまで上り詰める筋金入りの虚言癖である証言者の「虚構」に対して、彼の半生の再現ドラマの一部分に仕掛けとして素敵な「虚構」を隠し組み込んだ原一男、半端ないって。鳥肌モノでした。気づけてよかった。

タイトル秀逸だなあ。見終えると褒め言葉として聞こえる。かっけえ。
andhyphen

andhyphenの感想・評価

3.7
特集上映「挑発するアクション・ドキュメンタリー 原一男」にて。
井上光晴は井上荒野の父というイメージしかなかったが、これは魅力的だわと思うしかなかった。語り口も上手いし。女性の証言の生々しさも相まって、艶かしい。
後半で彼の「嘘」が鮮やかに(?)暴かれていくのは若干コメディチックでもある(実際笑いが起きた)のだが、虚構を生きざるを得ないひと、そしてそのまま虚構を紡ぐことになったひとというのが興味深い。
手術のシーンはよく撮れたなと思った。あそこまで生々しいシーン昨今の映画にあるだろうか...。
あと個人的には勝手に私の中で伝説化していた埴谷雄高が当たり前のようにインタビューに応えたり井上光晴の見舞い来たりしていて、誠に恥ずかしながら「ああ実在したんだ...」という気持ちになった。
ちなみに上映後のトークショー、原一男監督によれば「この映画の影の主役は瀬戸内寂聴だ」とのこと。埴谷雄高もそう言ったそうです。
べらし

べらしの感想・評価

3.7
ああなるほど
この前セクハラ事件を起こした早稲田の教授っていうのはこういう文学者と弟子との関係性の中に居たんだね
映像で見て非常に合点がいった
過去鑑賞
buddys09

buddys09の感想・評価

2.0
いろいろあるけど、なんだかモテるおっさんの話です。
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