カツマ

西部戦線異状なしのカツマのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
4.3
空虚な響きだけがそこにある。地獄のような戦場、弾け飛ぶ命。兵士たちが夜空の星になっていくのはひたすらに無為、意味があるとは思えない作戦に次ぐ作戦。指揮者は行燈と己を語り、若者たちは死んでいく。それが戦争。いつだって消えていくのはまだ夢を実現出来たはずの世代。この地獄絵図はまだ中途。出口の見えない戦乱が荒野のように広がっていた。

Netflixが送る、1930年に公開されたアメリカ映画『西部戦線異常なし』の二回目のリメイク作品である。これまでの同作と異なり、舞台となるドイツの映画としてクレジットされており(これまではアメリカやイギリスがクレジットされていた)、そういう意味でも意義深い作品だろう。第一次世界大戦の激戦区を舞台に戦争の惨さと虚しさをこれでもかと抉り出す。反戦映画の元祖にして金字塔。何度リメイクされてもそのメッセージが色褪せることはない。

〜あらすじ〜

第一次世界大戦のドイツ。志願兵として友人たちと共に、祖国ドイツを守るために戦場へと向かった17歳の血気盛んな青年パウル。だが、実際に戦場へと派遣されると、そこで待っていたのはただ陣地を得るために突撃するだけの無謀な作戦で、フランス側の砲弾が雨あられと降り注ぎ、周りの仲間たちの死体が次々と転がる地獄絵図が広がるばかりであった。友人のルートヴィヒは爆発の餌食になり、生き残ったパウルと友人たちは戦場に来てしまったことをひたすらに後悔するも、もう平和な日々に戻ることなど出来なかった。
パウルは極限状態の戦場で歳上の兵士カットやチャーデンと出会い、少しずつ親交を深めていくも、仲間たちも一人また一人と命を落としていき、戦争の出口は見えずに死を待つような日々が続くばかりであった・・。

〜見どころと感想〜

正に地獄の沙汰。大義を信じて自ら戦争に赴いた若者たちが一瞬にして天国から地獄へと突き落とされる序盤。そこからの絶望が連続する中盤。そして、虚しさが広がり続ける終盤。未来あるはずの若者たちが無意味に死んでいく、という戦争の現実を真っ向から抉り出し、それが強烈な反戦映画として機能する作品である。将校のくだらない思想やプライドのせいで戦いたくもない若者たちが死んでいく。それこそが戦争。犠牲になるのはいつの日も未来を信じた者たちだけであった。

主人公を演じたフェリックス・カマラーはオーストリア出身の俳優で、大抜擢とも言えるキャスティング。ボロボロになっていく若者を体当たりで演じており、特に後半の修羅となった姿は強烈だ。カット役のアルブレヒト・シュッヘはここ最近のドイツ映画の秀作にいくつか出演しており、『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』などにもキャスティングされている。また、数々のドイツ映画で主演を張ってきたダニエル・ブリュールがドイツ代表の交渉人として登場。MCUにも参入している彼こそが今作の最大のビッグネームだろう。

不穏な重低音が画面を支配し、その合間に炸裂音が響き渡るような恐るべき修羅場の描写。戦場表現は所謂『1917 命をかけた伝令』でサム・メンデス監督が使用したような、長回しのまま人物の後方から追いかけるカットが多用されている。そこにあるのはヒリヒリとした臨場感。だけれども、エンタメ性とは無縁の獄炎。戦争をより忠実に描くことでメッセージ性を最大化する。今作はその効果を十分にあげていると思うし、降り積もった哀しみの堆積が、戦争という爪痕をいつまでも刻みつけていくようであった。

〜あとがき〜

名作のリメイクですが、『1917 命をかけた伝令』以降の戦争映画へと上手くビルドアップされています。そのせいで戦場の恐怖描写、酷たらしさが強調され、今もまだ戦争が続く現世に強く訴えかけてきます。

戦争とは何も生まない。ただただ奪うだけ。ということをひたすらに連発するような作品。どっぷりと太った将校の呑気な言葉が、戦争という行為の無意味さをひたすらに感じさせてくれました。
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