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西部戦線異状なしのnetfilmsのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
3.8
 第一次世界大戦開戦から3年目の1917年。17歳のパウル・ボイマー(フェリックス・カマラー)は学友のアルベルト・クロップ(アーロン・ヒルマー)、フランツ・ミュラー(モーリツ・クラウス)、ルートヴィヒ・ベーム(アドリアン・グリューネヴァルト)と共にドイツ帝国陸軍に入隊する。SNSで真実が露になることもない時代だから4人の表情が一様に明るいのが辛い。彼らは学校職員の愛国心に満ちたスピーチを聞いた後、高揚感で2つ返事で祖国の為に兵士になることを決断する。累々と積み重なる焼け焦げた死体。何者かがそれらから剥ぎ取ったコートやブーツは綺麗に洗い流され、クリーニングされて元の持ち主の記録を抹消する。そうして次の兵士から次の兵士へと持ち主が変わる様子を、切り取られたタグで表現した場面が極めて印象的だ。使い捨ての兵隊のコートに袖を通す様子は皮肉にも未来への希望に満ちている。西部戦線とはいったい何か?東部戦線といえばドイツとロシアのせめぎ合いだが、西部戦線とはドイツ軍とフランス軍ののっぴきならない領地の境界線を意味する。南方のスイス、ベルギーからそのまま北上し、果ては英仏海峡まで続く辺り一帯に塹壕が掘り進められ、ドイツとの戦線が構築されて行く。

 パウルたち4人が一兵卒として送り込まれた前線は正にこの連合国側のフランスとの境界線になる。未来を夢見たはずの4人の行き先すなわち西部戦線の塹壕戦の現実は彼らのロマンを打ち砕き、ルートヴィヒは初日の夜に砲撃で命を落とす。その陣取り合戦の苛烈さは正にこの世の地獄絵図なのだが、レイティングを意識せざるを得ない昨今の世界的な戦争映画の動向は、戦場の地獄をあまり直視せず、その代わり専ら彼ら1人1人の心理描写に大方の時間を割くことで、彼らを単純な被害者として描くことがない。先輩兵士のスタニスラウス・"カット"・カチンスキー(アルブレヒト・シュッフ)は心優しき先輩で、直ぐに意気投合するのだが、食料ラインを絶たれ餓死寸前のカットとパウルは農場からガチョウを盗み、アルベルト、フランツ、そしてシャンパーニュ戦線の裏で共に戦った別の先輩兵士のチャーデン・スタックフリート(エディン・ハサノヴィッチ)にも分け与えるのだ。弱者が更なる弱者を辱める構図の中でパウルはかつて持っていたはずの人間としての気高さを忘れて行く。醜い兵士に成り下がる。一方でガスマスクを外すのが一歩早かったせいで、部隊が全滅になる場面に絶句する。

 生存本能と正常な判断とは平時であれば緊密な関係を築くのだろうが、人は地獄のような場所で地獄のような事実に見舞われると、何をしでかすかわからない。それ自体が一兵卒が生み出した戦争の愚かさであり、戦争の無力さであろう。1914年から1918年にかけて行われた連合国とドイツ帝国との不毛な戦いは、フランス、イギリスおよびベルギー側に7,493,292人もの死者を出し、ドイツ帝国側に5,603,000人もの死者を出したと推定される。双方合わせて13万人強の死者を出す不毛な戦争だった。
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