まーしー

西部戦線異状なしのまーしーのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
4.0
第一次世界大戦において、ドイツvsフランス・イギリス連合軍の膠着状態が続いた、フランス領内の西部戦線。
タイトルの「異状なし」とは、1914年から1918年にかけて戦線がほぼ動かなかったことを意味する。

西部戦線の戦いをドイツ側からの視点で描いた本作。
とにかく内容は重く、描写がリアルだった。
砲弾や銃弾を前に、次々に肉塊と化していく兵士たち。
仲間の死、飢えや渇きとの戦い、将来への絶望感……描かれている世界は地獄絵図そのもの。
そして、武器や軍服を使い回す様子は、軍の余力のなさを示唆している。

しかし、簡単に兵の撤退を許さないドイツ軍本部。
理不尽としか言いようがない。冷静な判断力を喪失し、常軌を逸しているようにも見える。
休戦までのわずか15分のために、どれだけ多くの兵士が犠牲になったことか……鑑賞後に虚しさが漂った。

こうした過酷な戦場も、冷酷な軍本部も、どちらも決して後味の良いものではない。
ほぼ間違いなく、鑑賞する者を疲弊させる。
ただ、嫌な現実を直視した作品だからこそ、戦争のもたらす不幸がより伝わってきたようにも思う。

臨場感・没入感という点では、イギリス側からの視点で描いた『1917 命をかけた伝令』を連想した。
『1917』同様、目線と同じカメラアングルやカメラの長回しによって、戦場に身を置いたかのよう感覚に陥る。
飛び散る血。跳ね上がる泥。横たわる兵士たち——同じような惨状が、ウクライナ領内でも起きていると思うと、胸が痛くなる。

前面に押し出すことがなくとも伝わってくる反戦メッセージ。
鑑賞には精神力を要するものの、一部の地域で戦争が起きている今だからこそ、観るべき作品のように思う。