くりふ

フェイブルマンズのくりふのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.0
【映画が浮き彫りにする光と影】

某所から、甘口映画愛映画ではなく、むしろ逆と聞き、興味が湧いたので行ってみた。

こじんまりだが奥深い、よい映画でした。スピルバーグをここまで身近に感じたのは初期作以来かも。テイストは『続・激突! カージャック』に一番近いかも、なんて思った。

ご両親が亡くなるまで待ち、関係者の名前を変え映画化した自伝的物語。家族崩壊を扱うパニックムービーwで、その意味でも原点回帰。さて、その崩れる引き金となったのが…。

熟練の、語りの手捌きに唸りましたが、私が面白かったのは、家族の物語を語りながらそのまま、スピ流・痛みを伴う映画論となっていることでした。

映画とは幸福の別名ではない。隠れた何かを曝け出すが、何かを嘘に塗り潰すこともする。

見ていて、スピは残虐番長だが、自虐番長でもあったのか!と妙に納得できました。

一番コワイのは、映像による“自傷行為”さえ、観客が消化しやすい娯楽映画にサラッと仕立てていること。

映画監督になることは、人間をやめることかもしれない。…作中、妹に責められる、それを想起させるシーンもありましたね。

まあそもそも、彼の監督幼年期が“激突!”で始まっていたことは、示唆的ではありました。

やがて、とある大人物から助言を得ますが、演じたキャラのお陰で真理かテキトーか怪しくなってましたが…聞く前すでに、スピ少年は助言に近い実践をしていたのですよね。

プロムの上映で判明しますが、ある人物を“見上げて”撮り、ある人物を“見下げて”撮っている。前者では、撮られた人物が真っ当な反応をしていましたが、これが映画のコワイところ。私はリーフェンシュタールが撮った『意志の勝利』の、ナチスの誰かに見えました。

アレが史実なら尚、スピルバーグとは、映画から生まれたメフィストのような存在ではと。たまたま魂は要求しないだけで。…実際は持って行かれた人、大勢いると思いますが。

登場人物は、寓話まではいかぬリアルを残し、その隙に引き込まれる。両親役のダノもミシェルも、他とは少し違う美味。ミシェルさんは、女を隠そうとするお母さんで巧かった。

ジャド・ハーシュが演じたフーテンのおじさん、もよかったねえ!あの胡散臭さこそハリウッド。昔々、『バビロン』を本当にかじった人なのでしょう。

スピ少年は、時々、本人に見えました。プロムではチャップリンに見えて、萌えましたね。

続編はないでしょうが、もしスピンオフをやるなら、クロエ・イーストが演じた、スピ少年の彼女を掘り下げてほしい。アレだけハイテンションで、神を盲信していたら、間違いなく奥に毒沼、隠してますよ。暴走する前に、映画でそれを、解体して!

<2023.3.12記>
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