ユーライ

フェイブルマンズのユーライのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.8
この監督(スピルバーグ)はパンツを脱いでいる。腹掻っ捌いて自分のはらわたがどういう色、形、匂い、感触をしているのかじっくりと確かめながら作っているような極私的映画。魑魅魍魎が跋扈する地獄のハリウッドで半生を過ごし、酸いも甘いも噛み分けた老人の怨念が伝わってくる。映画初体験で目撃する列車の事故、物と物とがぶつかり合って大惨事が起こる。その破壊の光景に少年は釘付けになる。俺が映画を撮るのは破壊衝動からだという告白。精神的に不安定な母親と仕事に没頭して鈍感を貫く父親、そして間男として取り入る父の仕事仲間である友人。それら大人に対する不信、嫌悪、葛藤、あるいは愛情。一家団欒のキャンプにて母が透け透けドレスで踊り狂うことの微妙な見ていられなさ、痛々しさ。そしてそれを見る間男と父。俯瞰する息子と娘。決して表面には浮き上がらない「家族」のグロテスクさ。女の顔をしている母をカメラ越しに見つめ続ける。NTRを偶然撮影してしまったことを超重大な事件であるかのように語る。次の日、友人らと作っている自主戦争映画で主役に対して「俺が全部悪いんだという気持ちで演じてくれ」とディレクション。血塗れで死んでいく敵兵。創作者が私生活の鬱屈を創作に仮託して解消せんとする過程を描いた実にクリティカルなシーンだと思う。普通、幼少期に覚える違和感をここまで鮮明且つ具体的に覚えている人はいない。初めて撮ったフィルムを狭っ苦しい押し入れにて母親と二人っきりで観る。ここで思い出したのは初代『ゴジラ』で恵美子にODの存在を明かす芹沢だ。唯一心を許す貴方だから見せたんだ。こういうところにスピルバーグは感情移入したのだろうか。特に問題は解決せず、憧れのスターと会ってはい終わりのあっけなさも「こんなもんだよ」と諭されるような説得力がある。歴史に名を残す超超有名ヒットメーカーが作った自伝がこんな『田園に死す』みたいな有様であることに世の中捨てたもんじゃないと思えるね。
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