竜平

フェイブルマンズの竜平のレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.4
ひょんなことから映画と出会い、映画監督を志すようになる少年「サミー・フェイブルマン」の人生を描く。巨匠スティーヴン・スピルバーグによるヒューマン及びホームドラマ。

触れ込みにもある通り、今作はスピルバーグによるスピルバーグのための(?)スピルバーグ自叙伝、ということでひとまず彼の作品にいくつか触れたことがあるってな人に薦めたいかなと。自伝映画というその事実ありきで見ることで楽しさが何倍にも膨れ上がると思う。今作での主人公サミーの姿こそが要するにスピルバーグの幼少期からティーン時代の投影であり、彼がどのようにして映画やそこへの衝動と出会い、またどのように付き合い、どのように今へと繋がっていくのか、彼の作品群が大大大好きな身としてはその話だけでもめちゃくちゃ興味深いというところ。彼が携わってきた作品のルーツとも言えそうな出来事、セルフオマージュとも取れるようなシーンもちらほら見えたり、ってのはまぁ考えすぎかなどうかな。とにかく映像としてもストーリーとしても、彼の作品をこれまでたくさん見てきていればいるほどに、いろいろ結びついてなんだかニヤリとしてしまうはず。

ピアニストの母親をミシェル・ウィリアムズが、エンジニアの父親をポール・ダノがそれぞれ好演。今作は家族間のドラマというのも良き、というか、じつはそっちがメインだったりする。序盤から如実に表れる家庭環境や夫婦の関係性。幸福も確かにありつつ、けれどもそれだけではない、そしてこういった問題に悩む家庭というのはきっと世界中至る所にあるんだろうなと、なんとも切ない気持ちになる。更に息子の視点での母と父の存在というのも確実にあって、これがやはりスピルバーグが後に作る映画の内容、込めてるであろうメッセージの部分にも繋がってくる(ように感じれる)からおもしろい。スピルバーグ(サミー)自身の葛藤や苦悩を垣間見れる場面もしばしば。ユダヤ系ということで向けられる差別の話だったり、学校でのユーモア溢れるやり取りから歯痒い人間模様まで、ヒューマンドラマとしてしっかりグッとくる内容になってる。

劇中で頻りに言われる「芸術」という言葉、それとの向き合い方というのも今作の大きなテーマとなってる気がする。現実と空想の狭間、境目を見せていく(と個人的には思ってる)映画というものに於いて、スピルバーグの持つそれへの視点がまた素晴らしかったりして。本当にこの分野に長けてる人物なんだなと今作を見て改めて感じる。純粋で熱心で、また少年時代から青年になっていく中での脳裏に焼きついているであろう景色、出来事なども印象的。劇中でこれも言われることだけど、決して「楽しいだけ」の職業じゃないという、しかしそれでも自らも楽しみつつ、ヒットメイカーでも在り続けてきたスピルバーグの真に迫れるというか。要所要所で理屈ではない「ロマン」を感じれるあたり素敵。劇場で見た時特有の満足感ってのもあるかもだけど、切なさとほっこり感に包まれる良作。

ちなみに見終えた後で調べて理解したけど、終盤も終盤のシーン、ここのキャスティングやら雰囲気やらが絶妙だったんだなと。これはまぁ見てのお楽しみかな。妙な清々しさを残す終わり方もグッド。
竜平

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