Jun潤

フェイブルマンズのJun潤のレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
3.9
2023.03.23

予告を見て気になった作品。
スティーブン・スピルバーグの自伝的作品で、数々の名作を世に送り出してきた彼がどのような人生を送ってきたのかを描く。
映画との出会い、映画制作にかける情熱を、長く映画界の第一線で活躍し、数多くの金字塔を打ち立ててきた人物の人生から描いていくという、映画ファン的にはたまらない一作。
見逃すわけにいかず、上映終了直前に滑り込み鑑賞です。

幼い頃に映画の世界に魅了されたサミーは、理知的な父と情熱的な母の元、映画製作に没頭していく。
初めはただ見たい場面を繰り返していた、それを映像に収めて繰り返し鑑賞し、観たい場面を自分の手で創りあげていった。
自分が作った映像が、祖母を亡くした母の悲しみを癒すなど、映画が持つ可能性に触れていく。
しかし同時に、映画製作にはサミーの人生にもたらす苦難や悲しみも内包していた。

これは逆『バビロン』であり『バビロン』0。
業界内の権力争いや映画が持つ社会的意義、収益などよりももっともっと根源的な、映画製作に対する情熱と、同時に存在する悲しみについて言及した作品。
スピルバーグという実際に活躍してきた人物の土台となった日々を描いているのだから、作中で何が描かれようとその先にあるのは世間的には多くの人の喜びや感動。
しかし映画製作の過程で悲しみや苦難はたくさんあったのだろうなと感じました。

「趣味」と「仕事」、「アート」と「テクノロジー」、「理性」と「情熱」、そして「家族」と「孤独」。
相反する価値観を持った両親のもとで成長していくサミーにとって、自分の映画製作がどうあるべきかというのを、常に自問していたのだと思います。
プロの映画監督を目指すにつれ、そこにはテクノロジーが必要になり、孤独へと突き進みがちで、情熱を忘れて理性を優先してしまう。
映画が持つ力強さを一番よく知っているからこそ、父と母両方の愛情を受けてきたサミーだからこそ、その板挟みに苦悩していて、その様がよく描かれていたと思います。

サミーの映画製作に関する才覚、僕も監督にあって欲しいと感じる技能について、作中でも描写があったものは、出演者の感情を引き出すことだったように見えました。
ボーイスカウト時代に、実際体験していない、現実で目の前にない光景、自分の中にない感情を引き出して、カメラやスクリーンの向こうに風景と共に人物も創り出している。
サミーはそんな監督だったんだと思います。

今作含め、観客が観る映画というのは製作にかかった膨大な時間のうちのほんの一部分。
こちらにとってはそれが全てですが、監督にとって製作の過程で悲しく感じることがある。
そのことが、今作では母の不倫という、ホームビデオを見る家族たちは知らないけど、編集している自分だけが目の当たりにした不都合な事実、という形でよく描かれていました。

また、時代的にアナログな手作業が多く描かれていましたが、どれだけスマートな技術が生み出されようと、映画だけでなく何かを創り上げるためには、泥臭く目の前の作業に没頭していくしかないんだなということも感じ取れました。

中盤まではめちゃくちゃ楽しめましたが、どうも後半のサミーの学校生活が間延びして見えてしまった。
もちろん、サミーの青春時代や、嫌いな人物や嫌な出来事でも映画にすればキレイにすることができる、ということを表す上では不可欠な場面でしたし、カタルシスも発揮されていましたが、如何せん前半からの突き落としが強すぎて、あと一歩届かなかったかなという感じ。
Jun潤

Jun潤