鮭茶漬さん

フェイブルマンズの鮭茶漬さんのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
2.0
スピルバーグが映画史に残る天才なのは世界中の誰もが認める事実だけど、その生い立ちに特異性はないようだ。親の不倫や離婚、高校時代の虐め。わざわざ自伝映画にするほどのネタだろうか? 我々が見たかったのは、もっと映画への情熱や、イマジネーションの源となる経験と心情の変化である。これじゃ、冴えない文化系童貞の青春をつらつらと見せられ、ただ単に眠いだけだった。
1971年の『激突!』から始まったスピルバーグの成功物語も、幼少期に玩具の汽車を衝突させる様子をカメラで録画することに起因しているなど、随所に巧みな芸が描かれているのは流石だが、どこかナルシズム的である。偉人の過去を描くのって、後世において、その作家を敬う映画人が撮るとかが多いものだが、自伝とは「らしく」ない。

ラストで青年となった主人公サニー(劇中のスピルバーグ)は、ジョン・フォード監督と面談するわけだが、その時に壁に飾ってある絵画の地平線はどこかと聞かれ、見事に回答し合格するわけだが、フォード監督は「地平線が画面の上でも下でもいい絵になる、地平線が真ん中にあると死ぬほどつまらない」というアドバイスだけ伝え、青年スピルバーグを部屋から追い出す。そして、映画スタジオを闊歩するラストシーンで地平線を真ん中に移し、慌てるようにズラすとう小技が何とも娯楽王スピルバーグである。散々、退屈だと思っていた映画だったが、このシーンだけで少し見て良かったと感じた。
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