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ノーセインツ 報復の果てのタケオのレビュー・感想・評価

ノーセインツ 報復の果て(2022年製作の映画)
3.6
-ポール・シュレイダーが描き続ける「救済」なき「煉獄」『ノーセインツ 報復の果て』(22年)-

 煮詰まった男の姿を描かせたら、ポール・シュレイダーの右に出る者はいない。彼の作品の主人公はいつも同じだ。隅々まで腐敗しきった「社会」の中で、逃れようのない「罪」を背負いながらもがき苦しんでいる。この永遠にも思える「煉獄」に終わりはあるのか?訪れるはずのない「救済」を待ちわびる男たちの絶望を、ポール・シュレイダーは描き続けている。
 本作の「犯罪組織に誘拐された子供を救うために主人公が暗黒世界に足を踏み入れる」というプロットは、ポール・シュレイダー自身の代表作の1つ『ハードコアの夜』(79年)をそのまま引き継いだものだろう。主人公は暗黒世界に足を踏み入れていく過程で、かつて自身が犯した「罪」と向き合わざるを得なくなる。そして誘拐という形で、その「罰」に息子を巻き込んでしまったことに気がつく。エゼキエル書18章20節には「罪を犯す魂は死ぬ。子は父の悪を負わない。父は子の悪を負わない。義人の義はその人に帰し、悪人の悪はその人に帰する」とあるが、本作ではそんな旧約聖書的な世界観は意図的に否定されている。何故なら本作が描いているのは、神も仏もない「煉獄」そのものだからだ。全編に満ち溢れるヒリつくような緊張感が、世の不条理と残酷をヒシヒシと伝えてくる。
 クライマックスに至っての衝撃的な展開は、まさに『ノーセインツ』というタイトルに相応しい凄惨なものとなっているが、その救いのなさこそが、本作を紛うことなきポール・シュレイダー作品たらしめている。ポール・シュレイダーは今日もまた、終わりなき「煉獄」を描き続ける。訪れるはずのない「救済」を待ちわびる男たちの絶望は、ポール・シュレイダー自身の絶望でもあるからだ。
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