記憶障害と強迫観念症を併発させた夫人が、精神病院の存在意義を考えあぐねている、堅実な主治医と出会う。メアリー・ジェーン・ウォードの半自伝的小説を映像化している、サイコ・サスペンス。
精神疾患をもっている夫人と治療に専念している主治医。その双方の視点を通して、精神病院のぞんざいなシステムに異議を唱えている作品。主人公夫人の脳内でヒューマン・エラーが発生している様子を、当人の一人称で描写していく。
主人公が育てられた家庭環境にトラウマの根源があることを、早い段階で提示してくるが、要点となる部分はドラマの進捗に合わせて開示されていく。患者と医師の掛け合いが映画的に面白く、一寸先が暗闇の状態で進行するため、訴求力が半端ない。
何よりも、感受性が研ぎ澄まされている主人公が、健常者が内在させている異常性に対して、過敏になっているところが興味深い。我々は便宜上、健常者という言葉を用いているが、果たして本物の健常者は存在しているのだろうか、という命題が見え隠れする。