たく

aftersun/アフターサンのたくのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.8
観終わってからジワジワ来るものがあった。でもこの作品は観る人を選びそう。夏のバカンスを過ごす父親と娘の仲睦まじいプライベートな空間をとらえた映像がひたすら続き、これは一体なんだろう?と思いながら観てると、最後に意味が分かってジーンと来る。残されたホームビデオの実際の映像の合間に、現在の視点から再構成した思い出を挿入して補完したってことだろうね。

序盤で父親のカラムが娘のソフィに護身術を真剣に教えるシーンが出てきて、早くも不穏なものを感じる。これは自分がいなくなっても自分の身を自分で守れるようにというカラムのせめてもの思いだったのかも(‥というソフィの再構成)。
過去のシーンの合間におそらく現在のソフィが照明のチカチカするクラブハウスのような場所で踊ってる映像が挟まれて、両者がどう繋がるのか見えないまま進んでいくのがちょっとイライラさせる。穏やかに過ごす夏のバカンスの親子には一見何の不安要素も無さそうに見えるけど、カラムが時々ホームビデオの映像を寂しそうに見返す姿に何か闇を抱えてることが窺われる。いっぽう11歳のソフィは子どもながらにちょっと背伸びして年上の男女に混ざって遊んだり、バイクゲームで知り合ったマイケルといい感じになったりと、思春期の微笑ましい姿を見せる。

冒頭でこの日がカラムの誕生日であることをソフィが伝えるホームビデオ映像が中盤で再び戻ってきて、ソフィが自分と同じ11歳の時の思い出をカラムに聞いても答えたくない様子。たぶんこれがカラムの過去に何かあったことを暗示する重要なシーンで、彼がカラオケ会場で毎年歌ってた定番の歌を頑なに拒否することにも繋がるように思える。この後いつも一緒に行動してたカラムが衝動的に海に入るシーンはドキッとしたね。

現在のクラブハウスの場面に昔の姿のカラムが登場し始め、これが夏のバカンス最終日の親子の踊りと繋がって、バックに流れる歌がラストダンスであることを伝えてくるのがジーンと来た。タイトルは、カラムがソフィに話す「いったん故郷を離れたらそれは太陽(sun)を失ったということで、もう戻れない」っていうくだりから来てるんだろうね。今のカラムはすでに生きる意味を失ってしまったんだと。それを11歳のソフィは理解できなかったけど、大人になったいま当時のホームビデオを見返して、初めて父親の気持ちに寄り添うことができたんだろうね。もしかしてソフィがレズビアンであることにも関係してるのかも。背景に赤ちゃんの声が聞こえるのが生と死の対比になってた感じ。
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