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コンビニエンスストアのbackpackerのレビュー・感想・評価

コンビニエンスストア(2022年製作の映画)
3.0
第35回東京国際映画祭 鑑賞第12作『コンビニエンスストア』

ーーー【あらすじ】ーーー
ウズベキスタンからロシアへ出稼ぎにきた女性ムハッバトは、自分達を奴隷の如く扱うロシアンババアのザンナの元から逃げ出すが、生後間もない息子を奪われてしまう。
国で母と再会した彼女は、薄給な綿花畑で働くが、母が倒れ入院。高額な手術費が必要になってしまう。
母の手術費、ロシアに残された息子、貧窮する生活。
そんな時ムハッバトが電話をした相手は、非道な支配者ザンナだった……。
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奴隷労働による搾取からの解放と思いきや、残酷な現実に光はないと思い知らされる、無情のロードムービー。救いのない展開に打ちのめされます。

構造は“行きて帰りし物語”ですが、地獄の出稼ぎ労働(特別な世界)→祖国の母との生活(普通の世界)→地獄の出稼ぎ先への帰還(特別な世界)、という旅路を辿ります。
通常の旅路では、普通の世界→特別な世界→普通の世界、という流れを辿るか、特別な世界に根を張り戻らないことが多いですが、過酷な環境という特別な世界へ戻るという構造はちょっと特殊ですね。

また、二幕までにうっすら展開された“自分の人生を生きる意味の探求”が、「貧乏だから思考に耽溺する暇なんぞない」とアッサリ切り捨て、「生きるってのは綺麗事や理想論じゃすまねぇんだよ」と見せつけるかのように、呪縛と服従の世界へ自ら戻っていくラストは、絵空事の通じぬリアルな世界を意識させられ、恐ろしいですね。

他のウズベキスタン人女性を同じ境遇に陥れるという、ある種の悪の道(嫌悪していたザンナに近い存在へと昇華する)に邁進する主人公を見せる三幕を、短時間で終わらせたのは、コチラの精神衛生を考えても英断だと思います。
ただ、囚われの女から魔女へとステップアップする盤石の展開は、女性の自己実現という成長譚としての構造をバッチリなぞっているので、要は見せ方・語り方なんだなぁとしみじみ。
ラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』等のような、監督の嗜好のせいで、女性を露悪的かつ清純に苦しめるものと比べれば、はるかにマシではありますが……。
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