ギルド

第三次世界大戦のギルドのレビュー・感想・評価

第三次世界大戦(2022年製作の映画)
4.3
【虚構で生まれる狂気の一撃必殺】【東京国際映画祭】
■あらすじ
シャキブはホームレスの日雇い労働者で、数年前の地震で妻と息子を失ってから立ち直れないでいる。
ここ数年、彼はろう者の女性、ラダンと関係を深めている。

そんな彼が働く建設現場は、第二次世界大戦中のヒトラーの残虐行為を描いた映画の撮影現場であることが判明する。
大きな困難を乗り越えて、彼は映画への出演、家、そして一人前になるチャンスを得る。
それを知ったラダンは、彼の職場に助けを求めにやってくる。


■みどころ
エキストラとして参加する日雇い労働者の男が戦争映画でヒトラー役に急遽抜擢されるお話。
戦争映画を撮る映画の裏話的な面白さから進み、そこは東京国際映画祭で鑑賞していたイラン映画に近いパワフルで面白いエンタメ映画だと感じました。
けれども、ある出来事をターニングポイントに良い意味で裏切ってくれて、そこが面白かったです。

戦争映画の撮影をしていく中で、主人公シャキブはヒトラー役で優遇されていた事をきっかけに徐々に闇の側面が顕になり「第三次世界大戦」というタイトルの意味合い、シャキブがたまたま演じる事になった「ヒトラー」の初めは馬鹿げていた存在から…?の片鱗が見え始める。その展開の豊かさは良かったです。

震災で妻子を失って、日雇い労働者として食いつないでいた男が社会の急激な変化に対して翻弄されていく姿に社会の寓話性だとか狂気を鋭く描いていて、そこが魅力的な映画だと思う。
本作はナチスの軍服を着て偉く見せようと錯覚させる「ちいさな独裁者」のいち面はあれども、いわゆる「無敵の人」になるまでの作品で、言ってしまえば日本の大企業に勤めるサラリーマンみたいなものだと感じました。
つまり名もなき人間に対して社会が「何者であるか?」というのを誇張して誤解させて、自分は凄い人間であると錯覚させる的なテイストを感じさせて主題の普遍性が強いです。

やがて映画が進むにつれて「悪魔の証明」「スタンフォード監獄実験」的な片鱗を見せ始めていき、シャキブが深い関係を持っていた聾者の女性との関係に変化が見え始め事態がとんでもない方向へ進んでいく。
本作は恐らく日本公開されると思うので、是非ともその目で確かめて欲しいが「無敵の人」へ近づくにつれて
・戦争映画という虚構装置
・カメラワークの被支配側の人間を見下すように撮っていた
2つに劇的な変化が訪れる姿には一定水準の緊張感があって初っ端から映画祭で良い映画に出会えたのは楽しかったです!

P.S.
あと聾者の女優さん凄く可愛かった
ギルド

ギルド