Kuuta

新婚道中記のKuutaのレビュー・感想・評価

新婚道中記(1936年製作の映画)
4.1
ユーロスペースの下まで続く行列 「クソ暑い中よう並ぶわ」と自嘲気味にぼやくおじさんと会話するなどした。蓮實の特別講義一瞬で売り切れてわろた

・「吾輩はカモである」「めぐり逢い」のレオ・マッケリー監督。スクリューボールコメディ。セリフと映像のズレが意識されていて、普通に会話が進む裏でドタバタと音がしたり、揺れる目線による感情表現があったり、服装や振る舞いが場違いな空気を醸し出したりする。

・90日後に離婚すると裁判で決め、別居を始めた夫婦だったが、互いのことが気になってしまう。フロリダ出張に行ったと偽装するため日焼けマシーンを使い、「15分じゃ足りない」と注文を付ける冒頭のケイリーグラントから、時計のモチーフが多く、離婚までのタイムリミットを印象付ける。

「15分じゃ足りない」かどうかを回収するラストが鮮やかで、「セリフに現れない力」に振り回されてきたグラントが遂に風を味方につけ、対照的にアイリーンダンは猫を自分の意思で動かす。

・精一杯取り繕いつつも危機的状況を上乗せしていく前半。景気良くすっ転び、中井貴一ばりに髪型の乱れで感情を表現するグラント、ピンチになると「あー」とも「うー」ともつかない適当な台詞回しで会話に乗っかるアイリーンダンがひたすら楽しい。一方で、立場が入れ替わり、アイリーンダンがグラントの恋人候補を失望させようとパーティーに乗り込む後半は、前半の「取り繕う感」が薄れてしまい(泥酔しているという理由はあるが)、緊張の糸が緩んだ感じはした。

・2対1の構図が多かった。1対1の関係からあぶれた人を椅子ではなく椅子の手すりに座らせ、不安定な体勢に導いている。後半のパーティーでアイリーンダンが2人の間に割り込んで座るのは作中では特異なアクション。

・アイリーンダンに別の相手を見つけようとする叔母が、隣に住む男に目星をつけるシーン。男と叔母がある程度の時間を一緒に過ごし、信頼関係を築いたことを、エレベーターの階層表示の針が巻き戻って進む「時計」に見立てる演出がめっちゃ洒落ている。

・高速会話と、男女関係が動物の自由な振る舞いで揺れる演出はホークスっぽい。夫婦が「親権」を争った飼い犬の暴れっぷりだけで十分楽しい。どのシーンだったか忘れたが、腰の辺りまでジャンプしてきてじゃれる勢いにこっちまで笑顔になった
Kuuta

Kuuta