カツマ

聖なる証のカツマのレビュー・感想・評価

聖なる証(2022年製作の映画)
4.3
もはや正しいかどうかに意味はない。信じるか、または信じられるか。物語からどのようなメッセージを受け取ることができるか。それに尽きるのかもしれない。外側も内側も創作かどうかはさておき、受け手に委ねることができるのが、映画という媒体の一つの魅力なのだろう。聖なる証はそこにある?曖昧さは信じるかどうかによって確定し、傀儡のように心を動かす。

本作はフローレンス・ピューを主演に迎え、『ナチュラル・ウーマン』でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したセバスティアン・レリオがメガホンを取ったNetflix映画である。食べずして生きていけるという少女の聖人性を証明するため、監視役として派遣された看護師の視点をもとに、『信じること』の意味を問う物語。内外の物語を対比させ、それが『作品』としてどう機能させるか、という領域まで踏み込んだ野心的な作品でもある。最初と最後のメッセージの意味とは?掘り進めるほどに深いところまで辿り着けそうな一本だろう。

〜あらすじ〜

1862年。看護師のエリザベス・ライトは船に揺られ、アイルランドの人里離れた村へとやってきた。エリザベスは雇い主の委員たちから『食べなくても生きていける』という奇跡のような少女を監視するよう命を受けており、その真偽についての報告を義務付けられていた。その少女、アナ・オドネルは実際に会ってみると確かに食べ物を食べておらず、水だけで生きているように見えた。が、ライトは同時にその真実に穴があるようにも感じていた。アナの家族は敬虔なクリスチャンで、アナの奇跡を信じて疑うことはない。特に母親の妄信ぶりは激しく、アナの奇跡に疑念を見出そうとするライトにも敵意を向けた。
次第にアナの奇跡の事実が見え始めた頃、ライトはアナとの接触を禁じるよう家族に厳命させた。するとそのあとから、アナの身体はみるみるうちに衰弱し始めて・・。

〜見どころと感想〜

明確なメッセージを複数内蔵した、落ち窪むような重さと静かな激しさが同居したような作品である。絵面は決して派手ではない。が、全体的に陰影に富んだカットが徹底されており、それらが物語の重厚性を見事に表現した。脚本にもメリハリがあり、静かだが睡魔を誘発させないような工夫が凝らされている。それは恐らく物語の展開の早さ、無駄の無さにも依るだろうし、演者たちの没入度の高い演技力も大きく貢献していることだろう。

主演のフローレンス・ピューは哀しさを胸の底に抱えながら、それを押し殺すような厳粛な演技が素晴らしい。強さと弱さの表現のバランスが見事で、壊れそうな危うさも内包している。共演には『マンク』などに出演しているトム・バークや、『ベルファスト』のキアラン・ハインズら。また、奇跡の少女アナ役を演じたキーラ・ロード・キャシディの静かなる鬼気迫る熱演も見逃せない。彼女はまだ子役。今後の成長によっては多くの作品で彼女の演技を見ることができるかもしれない。

劇中のメッセージ、そして、劇外のメッセージ。この映画は映画として機能するために内側と外側を明確化し、多層構造のようなメッセージ性を確立するに至った。過去の聖人という概念を根底から現実視するような表現もあり、それなりにタブーに踏み込んでもいる。そして、盲信するカルトの恐ろしさ、閉塞的な状況が生む無意識の狂気などを母性の在処とリンクさせ、それを物語の手綱として機能させた。静謐なる強烈なメッセージ。聖なる証があるか否かは、もはや副題でしかなかったように思えた。

〜あとがき〜

Netflixの年末配信シリーズの一角を担うフローレンス・ピュー主演作品は、重苦しくも真摯なドラマというイメージ。静かながらも退屈させない趣向、技巧が光っていて、アート映画とはならない奇抜な物語となっています。個人的には好きな一本。メッセージ性が強く分かりやすい点も好印象でした。

先日、第一子が誕生しておりまして、それもあってしばらくは映画のレビューの本数が極端に減りそうです。今年、あと1、2本見れるかどうか?(またはもう今年は見れないかも)という感じなので、しばらくは皆さまのレビューを楽しむためにFilmarksを使おうと思います。
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