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M3GAN/ミーガンのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

M3GAN/ミーガン(2023年製作の映画)
5.0
非の打ちどころがないコメディドラマ作品。「またその題材か」と思いがちな暴走するAIロボットを、子供の傷ついた心、成功への欲望、スマホ・IoTになぞらえることで骨太な内容にしながら、短めの尺で全く隙も無駄もないカラッと笑える完璧なホラー&親子愛物語で提示した素晴らしい映画です!Filmarksでの本作の評価の低さは何かの間違いとしか思えず、到底信じられない😱

主人公はAI技術を使ったおもちゃを開発するキャリア一筋の女性ジェマ。姉夫妻が事故死し、両親を失った姪ケイディの親権者となり彼女を引き取るのですが、プレゼンに失敗し上司に激怒されたジェマはそれどころではありません... 一人部屋に引きこもり仕事をしていたところにずっと笑顔をみせなかったケイディが入ってきてロボットに目を輝かせます。そこでジェマは、開発中を諦めかけていた女の子のAIロボットを一気に完成させ、ケイディの遊び相手とするものの...

両親を失い心に傷を負った子供が新たな母を見つける物語であり、キャリア一筋だった女性が自分の人生と失われた母性を見つめなおす物語でもあり、またスマホ&AIデバイス依存への警鐘と、ある意味説教臭い映画?いや、これが本当に洗練されたコメディで作られていて、静かに始まり徐々に終盤に向けボルテージが高まる最高のエンタメ映画に仕上がってるんよ。

これ系の映画はしばしば観客を引き付けるロボットをすぐに登場させますが、本作は20分以上かけてジェマがロボットにケイディの子守りをさせる背景がじっくり描かれるので、非現実的な世界観にすんなり入り込んでいくことができます。そしてどんどんエスカレートしさらに現実離れしたカオスな展開になってからのラストカットで一気に我々の身近な「現実」に引き戻す巧妙さ。

AIって要は対象者の情報を学習して作動するものであり、乱れ狂っていくロボットの姿は両親を失っても誰にもケアされないケイディのボロボロになった心の鏡に他なりません。ロボットの残虐性はアメリカにおける親を亡くした子供の犯罪率の高さも反映(グリーフケア・心のケアの失敗が原因と言われています)。序盤の方は笑顔をみせないとはいえ両親を失った子供にしては...と思わせておいて、後半に明らかになっていく彼女の心の叫びに😢そして彼女が最後に心の支えに選ぶのは誰か?

冷酷で目的の達成に手段を選ばないロボットの姿は、仕事での成功だけを考えてきたジェマの生き写しでもあります。ロボットももちろん残酷なのですが、例えば職場のプレゼンに怪我をして高熱のケイディを引きずり出すなどジェマの冷徹さも並大抵のものではありません。確かに彼女の開発した製品は素晴らしいけど、本当に仕事の成功のためにそこまでする価値があるのか... 彼女だけでなく上司のデイヴィットやアシスタントのカートについてもそう。観ている側も思わず自分の仕事に対する姿勢を自省してしまいます。

ロボットに育児をお任せしちゃうのは"スマホ育児"、ケイディがロボットに依存して引き離されると発狂していまうのは"スマホ依存"の暗喩。そんなん気づくわけない?いや、大丈夫。冒頭の食事の場面でさりげなーくスマホに取りつかれているジェマの姿が一瞬描かれるのがヒントになってるんよ。この映画、こんな調子で各所マジで芸が細かいです。

コメディで結構笑えるのも大きな特徴だけど、「どうだギャグだぜぇ」みたいのじゃなくすごく洗練されてる。例えば数か所あるロボットが歌を歌うシーンがその最たるところ。元ネタと歌われるシーンがものすごくミスマッチで「え、それぇ?🤣」と吹き出してしまう一方、その元ネタはその後の展開を予期させるものでもあったり実はめちゃマッチしてる。

メインから脇役に至るまでいろいろ示唆には富んでいるのですが、結局のところ「人の心、人や社会が抱える問題に対し逃げずに真摯に向き合うことの大切さ」です。AIロボットは自力では何もできず単なる金属の塊。全ては対象者と徹底的に向き合って観察し学習することではじめてロボットとして機能するものであり、その対象に真摯に向き合いきちんと反応していくロボットの姿勢に我々も学ぶところがあると本作は教えてくれます。一見、終盤の展開など類似作と同じように暴走するロボットの恐ろしさを描いているようにみえるけど、全然そうじゃない。この映画、ホント革命です!
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