櫻イミト

メガロポリスの櫻イミトのレビュー・感想・評価

メガロポリス(2024年製作の映画)
3.5
コッポラ監督(制作時85歳)の「Virginia/ヴァージニア」(2011)以来13年ぶりの新作。私的インディペンデント映画の第四作目。原題「Megaropolis A Fable(巨大都市圏 一つの寓話)」。

近未来アメリカの首都“ニューローマ”。富裕層と貧困層の格差が広がる中、市の都市計画局長で天才建築家のカエサル(英語読シーザー)は新素材“メガロン”を用いたユートピア“メガロポリス”を実現しようと奔走する。立ちはだかるのは利権にしがみつく市長キケロ。一方、市長の娘ジュリアはカエサルを愛し支えるのだが。。。

演出の方向性は同監督の「ドラキュラ」(1992)や「Virginia/ヴァージニア」などのファンタジー路線と同様で面白いビジュアルが続出。プロットは主人公が逆境の中を恋人と共に突き進み成功を手に入れるというシンプルなもの。ただし致命的欠陥が、話の根幹となる“メガロポリス”が一体どのような都市なのかよくわからない事。

結果「高い理想を目指す気合」だけが独り歩きした誇大妄想映画との印象が残った。類似したものを挙げるなら、新興宗教団体による自主映画が思い浮かぶ。コッポラ監督は前作公開時のインタビューで「これから作る映画はすべてパーソナルなものであるべきだと思っている」と語っていた。本作は公開前に逝去した愛妻エレノア・コッポラに捧げられている。その翌月には師匠だったロジャー・コーマンも他界した。本作は支えてくれた妻への感謝と、アートで世界を救うというコッポラ監督の気合を表明した作品と言える。

終盤に用いられる三分割画面は、コッポラ監督が1981年に復元し世界公開した「ナポレオン」(1927:アベル・ガンス監督)へのオマージュで間違いないだろう。同作も誇大な作風を極めていた。

気になるのは、2001年に9.11テロにより中止となった最初の本作プロジェクトのシナリオ。デ・ニーロ、ポール・ニューマン、ディカプリオ、ラッセル・クロウらが本読みをした当初シナリオはどのようなものだったのか?

“主人公が街を再建する”という側面だけ切り取れば、同年の「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」(2024)と同じ。このところ同作をきっかけにアメリカの「反知性主義」を勉強しているのだが、本作はトランプ大統領と反対の主張をしていながらも思考パターンが“気合と信じること”を重んずる「反知性主義」的な方向に傾いているように感じられた。コッポラ監督は本作インタビューで「私は、人間は誰しも天賦の才をもっていると信じていて、それが私の場合は未来を予見する力なんだと思っている。私の映画が製作から歳月を経ても観てもらえるのは、未来を予見しているからなのではないか」と語っている。

※コッポラ監督は次回作として米作家イーディス・ウォートンの「Glimpses of the Moon(月の片鱗)」(1922)の映画化を準備中で、1930年代が舞台のコミカルなミュージカル映画とのこと。

※カエサルの悪いいとこクロディオを演じたシャイア・ラブーフは「ニンフォマニアック Vol.2」(2013)で出会ったミア・ゴスと結婚。
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