吹いて来るのではなく、自分から吹かれに行く夜の風の冷たさを感じられる作品だった。
タイトルバックの字体も、とても沁みる雰囲気。
母親に虐待を受けていた美容院の客の女の子同様に、小さい頃、主人公も、父親から虐待を受けていたけれど、そんな時期に、給食で、魔法の様に牛乳を早く飲む男の子に、安らぎに似た憧れを持っていたのだろう。そうでなければ、大人になってからの面立ちは、そうそうは分からない。
男を作って、親娘を置いて出て行った無情な妻、母ではあったが、親娘2人で歯を埋めながら、乳歯から永久歯に生え変わる様に、生まれ変わった姿で、2人の前に現れて欲しいと願っていた様にも見えた。
主人公が暴漢に襲われ、男が駆けつけた時、
娘のためとはいえ、スカートをはいて来てしまったり、牛乳に氷を入れない様に頼まなかったりした様は、男の詰めの甘さを感じさせたし、それも、妻が男を作って出て行ってしまった原因のひとつだったのではと思った。
主人公があえて、不鮮明な母の遺影を飾っていたのは、母親への介護の象徴だったオムツの、あっさりとした廃棄同様、最初は、父親から暴行を受けていた時に助けてくれなかったことへの恨みにも、思えた。
けれど、亡くなる前に、母親がアルバムを見たがったことで、母親の自分への思い、愛情を実感出来るものとなって、長い介護の後の、男との新たな生活の兆しも表れながら、
朝でも、昼でもない、夜のスカートとしたのは、素足に感じる冷ややかさが冷たければ冷たいほど、帰宅した時、より温もりを感じられる様に、主人公を待つ男の温もりの予感と、次々と衣服から抜け出る様は、これからの「主人公の歯の生え変わり」が始まる暗示だったのだろう。