ピートロ

二十歳の息子のピートロのレビュー・感想・評価

二十歳の息子(2022年製作の映画)
3.9
子供たちの自立支援に取り組む中年男性が、養護施設育ちで仮出所中の二十歳の青年を養子にするドキュメンタリー。
被写体との距離感が絶妙で、作為的な誘導や演出もなく、とてもフェアで真摯に感じた。
上映後、監督と主演の網谷氏によるトークショーあり。両氏の活動に興味を持った。

他のユーザーの感想・評価

児童養護施設で働く四十歳の男が、非行歴のある二十歳の青年を養子に迎える。その家庭の日常にカメラを向けた。まるで箱書きが出来ているかのような流れと、中年男の面白い個性に支えられて、飽きさせない。青年は寡黙で人を寄せ付けないところがあるが、養子として居場所を与えられ、この関係を維持しようとする。実は中年男にとっても、新しい人間関係を大切にしたい。その思いが伝わってくる。そして唐突なエンドマーク。自分にはマネできない、成人を養子に迎えるリスクの大きさ。その気持ちは最後まで理解できなかったし、どういう展開を迎えるのか分からないままカメラを向けた製作者のリスクも、真似できるものではない。
D

Dの感想・評価

4.0

このレビューはネタバレを含みます

自分と同世代のゲイの男性が、二十歳の男性を養子縁組して息子にするって、いったい何が起きてるの?って気になりすぎて観に行ってきた。

結果、思ってた以上に状況は複雑で、一人の人間として社会にどう関わるのかを考えさせられる内容だった。

複雑なんだけど、ゼロから100まで説明するのではなく、自分にとって何が大切かに向き合えれば、この映画を見る価値はあるんだろうなって感じ。

二人称が「オマエ」なのは、ちょっと気になったかな。誰にでもそうなんだろうか。自分にとっては敵意を向ける対象とか、マウントを取る対象にしか使うイメージないから、ちょっと怖い。
reniltalf

reniltalfの感想・評価

3.8
2023/8本目
舞台挨拶付きで鑑賞

この前にみたエゴイストよりも映画として完成度が高かった。雲泥の差で。

監督の初期作「ドコニモイケナイ」があまりにも素晴らしく、かつゲイ当事者でもあるため期待して鑑賞。こちらもなかなかに痺れる映画だった。

監督と網谷氏は長年の友人だそうだが、カメラはウエットになりすぎず一定の距離を保ち続けているため、網谷氏、渉氏のみならず、網谷氏のご家族やNPOのメンバーにも鋭くレンズを向けている。

印象的な網谷氏の家族が向ける渉氏への疑問。いわゆるマジョリティ側(この場合は家族が良好な人)から投げかける疑問に含む加害性。それを一人で浴びることになる渉氏はどういう気持ちだったろう。もう慣れっこなのかもしれない。だが、慣れても痛みは痛みである。
彼にとって網谷家の輪には入りづらく、しかし網谷氏とは家族なのだろう。

同時にNPO法人でのディスカッションにおいて、子供連れの夫婦や女性が投げかける正しさのようなものが網谷氏に対して同質の問いかけとして機能する。
網谷氏はハッキリと罪を言葉にするが、彼自身の行動も罪ではないか?と投げかけてくる。

我々はある条件下において、マジョリティにもなりマイノリティにもなる。その立場により自然と加害性が生まれることは当然で、見過ごすことは罪ではないか。

時間をかけて育んできた二人なりの家族のあり方には衝突や葛藤もあったことだろう。カメラが押さえられていなかったり構成上削ぎ落とした部分にも家族をゼロから作り上げていく二人がいる。二人を繋ぎ止める杭のようなものとして家族はあるのかもしれない。
被写体が被写体として成立し得なくなる、未来予想図との不一致に直面する時の、撮る側撮られる側双方に求められる舵切りについて。自問のひとをカメラにおさめ続ける事で作品そのものが同性質を内包し始める
ドキュメンタリー作品
舞台挨拶:登壇
網谷勇気さん、島田隆一監督

島田監督の網谷さん親子との距離感、切り取り方が良い。

ドキュメンタリーの監督って意地悪だなと思う作品が多い中、そういう気持ちにはならなかった。

フィクションではハッピーエンドかもしれないけど、現実はそうじゃないよね、と島田監督は問いかける。
その問いかけに生々しいエグさはない。 

ドキュメンタリーに苦手意識がある人でも抵抗なく、良質なドキュメンタリー作品と思えるんじゃないだろうか。

舞台挨拶で網谷さんが自分がアップデートして渉くんに追いつこうとしているという話をしていたのが印象に残った。(島田監督談のインタビュー内容)


多様性や生きづらさに悩む人たちにとって、(いまは)状況も心境も変わらないかもしれないけど、自分も含め、生きていて大丈夫と思える世界であってほしい。
緑

緑の感想・評価

3.0

このレビューはネタバレを含みます

20歳の前科持ち男性と
彼を養子に迎えた40代男性の話。
40代男性はゲイだが、
結婚の代替としての養子縁組ではなく
親子関係としての養子縁組。

20歳男性が犯した罪がどんなものかも、
40代男性がなぜ養子を迎えるに至ったかも、
なぜこの20歳男性なのかも語られない。
監督が描きたいことはそこではなく、
上記の話をしたら主題がずれるから
省いたのだろうとは思う。
では、本作のテーマとはなんなのだろう。
施設からの自立の難しさか。
親になるということか。
どちらも主題と言えるほどの描写ではない。

40代男性に関して一番印象に残ったのは、
罪に関するブレスト中の攻撃性だ。
言っていることには共感できるものの、
物言いが怖かった。
息子になった20歳男性への「お前」呼びも
あまり印象がよくない。
なんで名前で呼ばないんだろう。
「お前」なんて誰にでも使える呼び方ではなく
彼固有の名前で呼べばいいのにと
観ながらずっと思っていた。

40代男性の実家は経済的に太く、
子ども大好きな両親が健在。
彼の父は20歳男性に対し、
息子が信じる渉を信じると言った。
そのぶん裏切ったら許さないとも。
息子が前科のある20歳男性と
養子縁組することを認め、
新たな「孫」を受け容れようとする
心意気はいいと思うのだけど、
自分が若い頃に
無条件の愛について
よく考えていたのを思い出してしまった。
親は子が無条件でかわいいとよく言うが、
我が子であるという条件に基く愛であり、
子であるという属性がなくなれば
愛する存在ではなくなる。
これは無条件とは言えないのではないか。

でもきっと親子関係がいい家の人は
こんなこと考えない気がする。
40代男性は22歳の頃に親にカミングアウトし、
その際に母親に言われた
「そんなことよりあんた大学どうすんの」
という言葉に傷ついて10年後に喧嘩したと。
この言葉は子どもを愛するにあたって
セクシャリティは関係ないということで、
性的属性はあなたを愛するのに
関係ないということは
愛されるための条件が
ひとつ減らされているということで、
これがどれほどありがたいものか
今はわかっているのだろうか。
ゲイであることでたくさん苦労したり
傷ついたりしてきたろうが、
身内への「甘え」が強いなと思った。

しかしそれがただ悪いという訳ではない。
「甘え」を受け止めてもらえた経験は、
人の甘えを許せる大人にしたようだ。
20歳男性と一緒に暮らすために引っ越し、
1年で彼はひとり暮らしをすると言い出す。
ベッドは置いておいてくれとのこと。
作中にはないけれど、
きっと話し合いは持たれたであろう。
40代男性は20才男性の自立を許し、
同時期に引っ越しをする。
ちゃんと20歳男性の部屋もある。
引っ越しって金も労力もすごく掛かる。
それを引き受ける度量は、
あの両親に愛されて育ったからだろう。
普通とは言えない育ち方をし、
まだ碌な社会経験もない20歳男性に
引っ越しの負担がどれほどのものか、
どこまで理解できていたのかはわからない。
しかし、ひとり暮らししたいという
我儘を言えるだけの親子関係が
築けているのだから、
この養子縁組は成功だ。

ただ、親なら息子の芸能活動は止めろよと
個人的には思う。
彼の生い立ちや前科、
試し行動をする不安定さなどから
人目に晒される仕事は
向かない気がしてならない。

彼等の家バレを恐れない撮影っぷりに
公開時には引っ越しているのだろうとは
思いながら観ていたが、
離れて暮らすオチとは
全く予見しておらず驚かされた。
素晴らしい!!フィクションを見てるような、物語が無いのにスクリーンに人々がしっかり描かれていた。
監督の被写体との関係性が見事である。
答えではなく、そこに居る人が私にスクリーンを通して迫ってきた。
Ys

Ysの感想・評価

-

このレビューはネタバレを含みます

ドキュメンタリー映画を含め、その映画は結局何がいいたいのか、その意味まで考えてしまいがちである。しかし、何がいいたいのかなんて本当は考える必要はないのかもと思わせてくれた映画だった。

養護施設や自立支援、普通のゲイの私生活を通じて家族のあり方をひとつの方向性として認識するだけでも良いのかもしれない。
養護施設で育った人とゲイに何かしらの共通するものがあるのではと思ったが、それは、居場所がらないという共通したものがあるのではと考えた。
ゲイは実家があってもおそらくそこに心の居場所はない、養護施設で育つ人も同様である。

タイムリーな話題ではあるが、LBGTの人たちの中には同性婚を強く求める人たちがいる。
彼らは家族という居場所を求めているのではとふと思った。

引越しすることで何かしらの区切りをつける感じがしたが、それは終着のない新しいスタート
のようにも思えた。

考えるのではなく、感じることが大事なのかもしれない。
菩薩

菩薩の感想・評価

3.5
おそろしく曖昧でいい意味で胡散臭さくて、劇中の言葉を借りればひたすらにグレーな作品である為に言葉に詰まるが、どうして勇気氏が渉青年を受け入れる決断をしたかと言えば勿論「大好き」だからであり、彼は「見ること」を選んだ、いや選ばざるを得なかった人生を生きて来た人で、そこは二人に共通する部分なのだと思った。見ること、見続けることはやはり途方も無い労力と苦痛を伴うことで、だからこそ彼は人と人とが傷付け合わずにはいられない人の世に於いて非当事者性を盾に目を背けることを厭わない人間に対してはあんなにも苛烈な言葉をぶつけてしまうのだろうけど、ただ見過ぎることもやはり暴力的なのであって、その点この作品の中に流れる曖昧さは丁度いい距離感と言うのものを構築していたんだと思う。実際隣り合った部屋で二人がどの様に生活をしていただとか、少しばかり服装も髪型も大人びた渉青年の生活がどう変化したかだとか、そんな事も想像することしか出来ないが、本当に渉青年にとって勇気氏が「帰る場所」となっているのであれば、二人の間に築き上げられた関係性、更にその外側に出来上がった輪を「家族」と呼んでも差し支え無いのだろう。無関心も無神経も無遠慮も、やはりその使い分けが大事だなと。引越しで始まり引っ越しで終わる居場所の映画。
深緑

深緑の感想・評価

4.0
あらすじ段階での強度に吸い寄せられるような形で劇場へ。

渉君のジーンズの穴空き加減や彼女さんの現役感等、ドキュメンタリー特有の「滲み出ちゃう何か」が結構頻繁に見受けられてこっちとしてはただただ嬉しい。

網谷さんが渉君の事を「お前」と呼んでいて「きっとこれは渉君のノリに網谷さんが合わせているに違いない」と思ったけど、作品が進むうちに「あぁ、確かにそういうパーソナリティの人なのかも」といつの間にか見方が変わる。

これもきっと「滲み出ちゃう何か」の蓄積の結果であろう。
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