いち麦

オットーという男のいち麦のレビュー・感想・評価

オットーという男(2022年製作の映画)
5.0
主人公の男は“いつも機嫌が悪く町の嫌われ者”というが、規則に厳格な一方、他人の痛みを理解でき困っている者には救いの手を出せるような、正しく生きてきた人物。だから近づく者を一度は拒絶するが、彼の偏屈な思考回路は長くは回り続かない。
6年前に劇場でスウェーデン版オリジナル「幸せなひとりぼっち」を見たときにも感じたことだが、この主人公が瞬時に心の切り替わりをしてしまう姿はキャストにとってなかなか難易度の高い演技が要求されるのではないかと。名優T.ハンクスがこの主人公役を演じたいと思ったのも何となく分かるような気がした。実際に彼の演技は実に自然で、苦虫を潰したような顔つきのままに優しい気持ちになる目もとの微妙な表情変化を見て取ることができた。

愛妻との麗しいやり取りの回想や、オットーの人物像を描写する場面がきめ細やかに織り込まれ、とても分かりやすいのも作品の魅力。また、劇伴が見る者の感情を巧みに導いていてウェットな演出に絶大な威力を発揮していると思った。オリジナル同様にこのリメイクもまた秀作。
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