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ドルフィンキングに何が起きたのか?のeulogist2001のレビュー・感想・評価

3.6
嫌な気分になる作品。それは自分のなかにもある「善意」だと考えていたことが一気に反転する瞬間のいいしれぬ気分に近い。

ドルフィン・トレーナーとしての彼はイルカを愛しているし、トレーナーという仕事にも強い自負がある。そしてそれを仲間たちにも求める。

しかし資本家や経営陣は利益を求め、仲間はゆるい職場と優しい人間関係を当たり前と感じ、動物愛護の過激なアクティビストたちは「正義の鉄槌」をくだすべきターゲットを執拗に追い詰める。

多かれ少なかれすべての関係者が資本主義的な利害関係の中で、自らの最適を社会に独善的に要求してその矛盾や問題点を顧みることは少ない。

資本家は利益を求めるのは当たり前だし、従業員はできれば楽して愉しみながら給与をもらって生活したいのも分かる。アクティビストたちも支援者たちからお金を集めるためには派手なパフォーマンスをして、「動物に対する愛情に溢れた人びとや団体」から注目を集めることが欠かせない。

動物をほんとうに愛護するなら、犬や猫をペットとして飼うことも含めすべて虐待ではないのか。動物をあたかも人間と同じように扱うことがほんとうに彼らにとって良いことなのかなど分かろうはずがない。少なくとも彼らの自由を奪ってることには違いがない。ペット好きは結局は自己愛に過ぎないのではないかという論者もいる。

なんなら養子に出された子どもがみな幸せかと言えばそうではないだろう。心からかわいがってると「飼ってる」側が一方的に断じる傲慢さにはいつも辟易する。どうしてそうだと言い切れるのか。

本作を観て、改めて「動物好き」の自己欺瞞について思いだした。

わたしは生きものは飼わない。調教して手懐けて一方的にかわいがることに「愛情」だと勘違いするような幸せな愚か者にはなる気はない。押し付けがましい愛情。それを偽善という。

そんな事を学生時代にしつこく言ってくる知人がいたが、いまは二匹の猫と一頭の犬に囲まれて生きてるそうだ。サッカーのワールドカップでの森保一監督への対応を見るまでもなく、世間体も個人の価値観も手のひら返しは世の常。
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