「ゴジラ-1.0」は、2023年公開の125分の作品。高評価であることが多い本作であるが、長年、特撮映画を見てきた私にとっては、神木隆之介の抑えたリアリスティック演技だけが本作をかろうじて支えて見ごたえのある作品にしたという感想。物語の結末が、すべて予想できる内容であり、意外性のあるエピソードが一つもない。結末はスローであり、特に最後の戦いから、戦闘後の病院のシーンまでが遅すぎる。神木の緊張ある演技がなければ崩壊してしまった映画であり、(演出家の意図なのか不明だが)神木以外の登場人物は、芝居がかって大げさであり、現実味が乏しく、舞台か歌舞伎のようなセリフまわしと演技である。
ゴジラ映画としても、何度も作られた第一作の焼き直しであり、特記すべきシーンとしては、熱線照射の前に、発光する背びれが尾から肩にかけて順に立ち上がっていくことで緊張感が生まれるというものだけ。熱線照射の後に、原爆のキノコ雲のようなものがあがるのも被曝者に対する思いやりがないカット。新しくゴジラ映画を作った意味がなかったといえる作品であるが、最後の最後にヒーローらしい戦いを組む神木対ゴジラのシーンのみは特撮映画に相応しいものとなった。
ヒロインとして浜辺美波が登場するが、神木とは、同じ時期に朝ドラ「らんまん」で夫婦役をやっており、時代背景も近いことから、「らんまん」を見た視聴者には新鮮味がない組み合わせとなった。
時代背景としては、神木を特攻隊の生き残りとしているが、戦後に生きて帰ってきた特攻隊員を、「恥知らず」として侮蔑するシーンが多く不適当である。戦前に作られた戦意高揚映画ではないのだから、特攻の生き残り役である神木を心理的に追い立てていき、国体の保持のために犠牲になって死ぬことのほうが正当であるような描き方は時代錯誤もはなはだしい。