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怪物のTSのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.1
【物事を多角的に捉える重要性】86点
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監督:是枝裕和
製作国:日本
ジャンル:ドラマ
収録時間:126分
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 2023年劇場鑑賞22本目。
 流石の是枝監督。また、先日他界した坂本龍一の音楽も流れるためある意味贅沢な一本とも言えます。改めてご冥福をお祈りします。

 城北小学校に通う麦野湊は、ある日学校でケンカをして傷を負ってしまう。シングルマザーの早織は湊を気にかけるのだが、そこには大きな落とし穴があった。。

 さて、今作はなかなかの作品であり、物事を多角的に捉える重要性を教えてくれます。そんなことわかってるよ。と思えるかもしれませんが、実際最初のパートを目の当たりにした時、我々はあの教職員達にどういう感情を抱くでしょうか。あまりにも不自然だから、これは何か裏があるな。と思えてしまいますが、それでもやはり見ていて気分の良いものではありません。しかし、同じ教員の立場として見たら、心が抉られるといいますか、少し病んでしまう内容ではあります。保護者がああいう感じで学校に来たら、あんな態度にはならんでしょう。あまりにもお粗末で無礼な教員達の態度。自分たちの保身のことしか考えていなくて、機械的にただ謝罪をするだけの様は、昨今の問題教員、さらには政治家の不祥事ニュースを揶揄したかのようなものにも見えます。自分の立場としては複雑。やはり公務員であるため、周りから信頼される存在でなければならない。しかし、学校という職場は極めて流動的な場所であり、何が起こるかわからない。ちょっとのすれ違いで自分がとんでもなく悪い存在と思われてしまうのだという恐怖も感じ取れました。

 一体何の話をしているのかというと、存外教員が100%悪いと言えるわけではないということが後のパートでわかってくるのです。一見、かなりヤバいと思われていた保利先生は、実は子どもが大好きな先生なのです。だからこそ、最初のパートにおける「早織目線の教職員達」の描写に凍りつきます。人はバイアスがかかってしまえば、こうも悪く見えてしまうのかと。物事の情報量というのは大事ですね。あまりにも情報が乏しい中であれらの対応を見てしまうと誰でも憤るでしょう。見ていて成程なと思わされてしまいます。

 ただ、やはり今作の主役は子役を演じた黒川想矢と柊木陽太でしょう。複雑な心境や行動をこの2人は絶妙に演じきっていました。多くは語らない、鑑賞者に委ねさせるというところも素晴らしかったです。今後、さらに活躍されることを期待したいですね。もちろん、世界的にも評価されている安藤サクラも安定感のある演技を披露してくれました。

 是枝監督の前作『ベイビーブローカー』は個人的には合いませんでしたが、今作はかなり良い出来の作品と感じました。ラストも恐ろしいといいますか、是枝監督はやはり鑑賞者にさまざまな問題提起をして、かつ想像力を掻き立てさせるのがうまいなと思いました。間違いなく今年の日本アカデミー賞の有力候補には上がってくるでしょう。考えさせられる、重厚な映画を見たい人はぜひ。ただし、自分と同じ教員の人が見たら前半はちょっと病んでしまうかも笑 あんなん見たらやってられんわ、て思ってしまいますよ。。
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