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レニのalmosteverydayのレビュー・感想・評価

レニ(1993年製作の映画)
3.5
撮影当時まだ存命だった人物のドキュメンタリーということもあり、本人映像もたっぷり。それは分かる。分かるんだけど、レニ女史ったらもう超絶アクティブ。ロケ、めちゃくちゃ多い!

自宅での談話はもちろん、女優時代の撮影現場つまり山岳地帯でも当時のあれこれをハキハキ話すし、ベルリンオリンピック会場のスタジアムでは当時のカメラマン二人を従えていくらでも記憶が蘇ってきそうな勢いだし、最終盤では年齢を20あまりもサバ読んで(!)ライセンスを得たというスキューバダイビングの腕前を余すことなく披露してくださるし、何というかもう、とにかくモダンで明晰で美しいものをこよなく愛するマダムとして描かれておられました。当時、御歳90。本人の資質はもとより、これが撮られた93年という時代の豊かさに思いを馳せずにはいられません。現代よりもきっとずっと、映画業界全体が持ち得る資金も時間も人的リソースも潤沢だったのだろうな…。

その他の主な特徴としては、ドキュメンタリーでありながら本人の生い立ちに一切触れないあたりが他には類を見ないかも?と思いました。ダンサーとして世に出てからが本番として描かれるので、そのへんちょっと唐突だったかも。その後の政治的スタンスや罪の意識に迫るとしたら、家庭環境は避けて通れないファクターのような気がするのだけどな。ううむ。

わたしが映画館へ足を運ぶ主な理由は「いい気分になりたい」が8割以上を占めているので、ヒトラーやゲッベルスとのいきさつにあれほど時間を割くのはやめて女優時代やベルリンオリンピックをこそもっと深掘りしてほしかったです。そう、わたしが観たかったのはオリンピック映画の撮影にまつわるあれこれなんですよ。フェンシングで選手本人よりも影を追う演出とか、高飛び込みのカメラの配置とか、起伏に乏しいマラソン競技でドラマ性を強調した意図だとか、そういうところにぐいぐい迫ってほしかったんですよわたしは…!市川崑の東京オリンピックは十中八九間違いなく来年どこかでリバイバル上映される筈なので、それまでじっと待ち続ける所存であります。あれは是非ともスクリーンで観たい、というか待たねばなるまい。

というわけで3時間超、ヘッドレストのない劇場で鑑賞するにはなかなかの忍耐力を強いる作品でありました。個人的に政治的信条と呼べるような信念は持ち合わせておりませんが、こうした層を煽動する能力ってのはおそろしいなと思った次第であります。
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