こうん

酔拳2のこうんのレビュー・感想・評価

酔拳2(1994年製作の映画)
5.0
いえーい、「酔拳2」がデジタルリマスター&ブルーレイ化!
(10月3日発売だそうな)(10月3日発売だぞ)(10月3日発売だからな)

しかしそれを記念した応援上映(今やってる!)には行けそうにもなく腸捻転になるくらい悔しいので、留飲を下げるために感想投下です。

個人的な話になりますが…
僕にとってのジャッキー映画…小学生まではテレビで観るのがジャッキー映画で、おこづかいを握りしめて映画館でジャッキーを観るようになったのは中学生くらいだから「プロジェクト・イーグル」とか「ツイン・ドラゴン」とか、その辺からがジャッキー映画の銀幕体験のはじまりだったと思います。90年代前半ですかね。

その頃のジャッキーは「奇跡/ミラクル」で気を吐いた後で、ちょっと精彩を欠いている頃でした。「炎の大走査線」とか「シティ・ハンター」とか、今思うと、作るべき映画を見失っていた感じがします。
当時すでに、中坊の僕らにとってジャッキー・チェンは過去の人…まではいかないまでも、「もうピークは過ぎたよね…」というのが正直なところでしたよ。

「ポリス・ストーリー3」は久々に面白かったけども、あの80年代の神がかり的な面白さはもう今は昔…といった受け止め方で。
あの体を張ったアクションやギャグに興奮していたちびっ子も少し大人になってしまったというのもあるかもしれません。「ターミネーター2」観た後に「ツイン・ドラゴン」観ても「ちょっとね…(みなまで言うまい)」と口をつぐんでおりました。

そう!
90年代前半はハリウッド製のアクション大作が幅を利かせていた記憶があります。
シュワルツェネッガーの全盛期で札束と爆発の量を競うような大作が連発される流れとは別に、マッチョなアクションスターがぼかすか敵を屠る!というジャンルであったアクション映画に「ダイ・ハード」が嚆矢となった新機軸のアクション映画たちがパラダイムシフトをもたらしており、“普通の人→超人”のアクション大作「沈黙の戦艦」を経て、その結果94年の「スピード」の大ヒットなんかがありました。
あきらかにアクション映画が変質してく過渡期だったと思います。

そんな潮流の中です、ジャッキーが十数年ぶりに本格カンフー映画を撮ったのです!

時代に逆行するように生身の身体による地に足着いたリアル路線の功夫映画、それが「酔拳2」ですよ!
隠れてバドワイザーを飲んでいた僕(中学生)にとってあの「酔えば酔うほど強くなる!」という惹句は「ほほーい」とテンションあがるものでした。

結果、みんなで映画館に行って出てきたらみんなDrunken Masterになっていました!

当時もう肉体的にはピークを過ぎていた(四十路手前だったはず)ジャッキーの円熟の体技の数々、重みのあるアクション、相変わらずなユーモア、恥ずかしいくらいにあふれる愛国心、そしてすごすぎる酔八仙拳!
紛れもなく、傑作だと思います。
紛れもなく、傑作だと思います!

上手く言えないけど、ブルース・リー以降の香港映画を切り開いたジャッキー・チェンというアクション俳優の重みが詰まった空前絶後の徒手空拳アクションの集大成じゃないですかね。本作での体を張ったいわゆるジャッキー・スタントは少なめですが、本作以上にジャッキーのキャリアを感じさせる肉体技の高まりや充実度というのはこれ以降ないんじゃないかと。

正直、本作がカンフー・スターとしてのジャッキー・アクションのピークなのじゃないでしょうか。そして本人もそれを自覚していたからこのタイミングで「2」を作ったのかもしれません…。(好きだからこんなこと書くんです)

後輩のジェット・リー・リンチェイやドニー・イェンもアクション映画の傑作をモノにしていますが、この「酔拳2」の気迫の凄まじさには頭が上がらないと思います。
「酔拳2」のジャッキーの躰には、狂気と紙一重の熱量がこもってます。

…と言いたくなるくらい僕は、この映画を愛していますね。
一般には「酔拳」のほうが人気が高いですが、僕は断然「2」派。
それには「ジャッキーの傑作をやっとリアルタイムでスクリーンで観られた!」という悦びも込みなんですが。それが嬉しかったので2回続けて観た記憶がありますよ。

とまれ、15年ぶりの「酔拳」は前作と同じウォン・フェイフォンを主人公としただけの繋がりのない続編。
いちおうフェイフォンが“酔八仙拳”の会得者として登場し、また父親の所有する先祖代々の土地を巡る諍い、という設定が地続きなくらいですかね。

前半は、強いけど若干堪え性の無いフェイフォンのドタバタと父親との酔拳を巡る確執、後半は中国の国宝を巡る争奪戦、とオハナシは結構がらりと変わります。
あんまり物語的な一貫性はないけれど、フェイフォンの成長譚とみれば、まぁそうなるのかなって感じです。
全然映画では伝わらないですが、ジャッキーのメッセージとしては「酒に飲まれるな!」ということみたいですね。
なにか痛い目に遭ったのでしょうか、ジャッキーは。
その証拠に、有名なカットされたラストシーンというのがあって、そこでは強いアルコールでフェイフォンが頭をヤラれてしまっている、というかなり笑えないブラックなオチが描かれています。
厚生省の薬物防止啓発映画よりキツイです。というか良識ある人は怒り出すレベル。
(ブルーレイには入っているそうな)

一応ジャッキーに代わって言っておきましょうか。
自分をコントロールできない人間がお酒飲んじゃダメ絶対!

…それはさておき、本当に魅力に詰まった映画ですよねぇ(しみじみ)。

本作の監督クレジットされているラウ・カーリョンさんは、実在した拳法家ウォン・フェイフォン(黃飛鴻)の直系の弟子で映画俳優でもあり監督、という人。
本作でもキーマンとなる憂国の志士フク・マンケイを演じております。
歴史と伝統を背負ったカンフーの達人でジャッキーも尊敬していたのですが、本作では意見が対立してカーリョンさんは降板となってしまったそうで。
後にジャッキーは「我々の友情に変化はない」と語っておるので、おそらくアクション演出の方向性で揉めたのではないかと思います。(と信じています)
カーリョンさんの後はもちろんジャッキーが監督。
どのシーンをどちらが演出したのかはわかりませんが、カーリョンさん出演部分は間違いなく彼自身の演出でしょう。
冒頭の列車の下の極狭空間バトルや中盤の茶店急襲シーンはジャッキー映画らしい派手さやユーモアに欠けるものの、渋くてカッコいいアクションの連続。
特に茶店での軍隊アリのように襲ってくる敵との戦いは今観てもスゲー楽しいです。
フェイフォンとマンケイの束の間の師弟関係も好ましいし(先輩と呼んでいる)、アクション上でのコンビネーションがいいし、なによりジャッキーの壮絶な抗戦ぶりがすごい。
あの竹を使った即席の武器はアイデア勝利!
他の映画にも採用されているかもしれないけど、本作でのあの竹の武器はアクション映画史に残るでしょう!ここは力説したい。
だってあんなに地味にしかし実感をもって「痛そう!」と思える武器はなかなか無いですよ。僕の中で「釘バット」に並ぶ凶器ですよ。
あの雑で邪悪な竹ぼうきは、「北斗の拳」みたいな時代が来たら一家にひとつ、携帯必須だと思っています。

それから前半の、フェイフォンが街中で(そそのかされて)酔拳を使って戦うシーンがまた1回目のテンションをあげさせてくれるのです。
前作から15年ぶりだというのに衰えないそのカンフー技、というか映画表現として洗練されていたりする。もちろんコミカルさも忘れず、バージョンアップされたジャッキーカンフーなのです。
あの回転頭突きとかブリッジしながら酒を飲んでいるところとか、単純にすごいです。
40手前のオッサンの身体能力じゃないです。
んで敵をコテンパンにやっつけるところなんかね、気持ちがいいですよ。

だけどここまでは前作の強化版という感じですが、ジャッキーはさらに先を行きます。
父親に勘当されて猛省したフェイフォンはマンケイと再会、国宝が悪い奴らによって海外に売りさばかれていることを知って愛国心がメラメラ、先述の茶店の大乱闘になって、しかしその逃走中にマンケイ先輩が死去、で怒り義憤に駆られたフェイフォンたちが立ち上がる、ッてな展開になります。

この悪い奴らは国宝を売りとばしていたりもするのですが、製鉄工場で労働者つまりフェイフォンの友人たちを劣悪な条件で働かせていて傍若無人な悪辣ぶり。
それに対して立ち上がるというのがなんだか労組的というかレジスタンス映画として、ジャッキーとしては珍しい色合いになっているんですよね。
この「納得いかないことには身をもって抵抗する」感じは「ポリス・ストーリー」で刷り込まれているので「あがるぅ~・:*:・(*´エ`*)・:*:・」となります。

そこからの製鉄工場でのアクションがスンゴイ。
特にロウ・ホイクォン演じるキックボクシング/ムエタイの使い手との壮絶な死闘はそれこそ国宝級。ジャッキーのベストバウトに必ず選ばれる戦いなんですね。

ジャッキー映画での強敵って足技を使うヤツが多いんですよ。
「ヤングマスター」のキムとか「ポリス・ストーリー2」のアパアパ(この呼称はひどい)とかね。で、敵わないから+αの要素でもって勝つというパターン。それが時に卑怯に思えるのがまた笑えます。(「ヤングマスター」では本作と同じくドーピングで勝利)

本作でのロウ演じるジョンがまた脚が長くて気障でにくったらしいんですよ。
あの開脚したまま眼鏡を外して「酔拳を見せてみろよ(‘;’)」と挑発する様は敵ながらカッコいいんですよね。
この映画を観たあと僕はジャッキーよりもこのロウの足技を熱心に真似したものです。
そのおかげで部屋の電灯の紐を引っ張って消せるまでになりました。

しかし、ロウは強すぎて酔拳でも勝てない。
酒を呑めばよりパワーアップした酔拳を繰り出せるのだが、改心して禁酒中、そしてそれは父との約束でもある。
だけど熱々の鉄棒で脚を殴打され火傷、おまけに燃え盛る石炭の中に突き落とされ大火傷。(このスタントはもう、なんの安全策も取れない、大火傷必至のスタントです)

火傷によって動きを封じられ、負けは必至、国宝は奪われ企業による労働者への搾取は続く。どうするフェイフォン、いやさジャッキー!

呑むしかない!(p゚д゚q)イマデショ!

傍らにあった工業用アルコールをがぶ飲み、ここからの猪突猛進の酔拳が凄まじいんです。そしてあの酔拳のテーマ曲が鳴りはじめ、否応なくテンションはあがります。
ロウの打撃はラリパッポ状態のフェイフォンには効かず、素早い足業(これは前作の“無影拳”を踏襲しています)を見切って蹴り返し、どちらかというと“柔”の技であった酔拳が“剛”になるんです。
フェイフォンがどんどん赤くなっていって、ジャッキー壊れるんじゃないかと心配になるくらいなのですが、そのアクセルもブレーキもぶっ壊れた感じの攻撃&攻撃&攻撃が、異様なテンションの高さで。
ジャッキーの目に狂気すら感じたのは僕だけではないはず。

その肉体を酷使した限界の生身のアクションにはもう涙を禁じえないくらいですよ。ちゃんとコミカルな表現も忘れないですしね。
特にアルコールを一気飲みして蒸気を吐き、しかし急性アルコール中毒かなんかで足が震えだして自らの胸を打って嘔吐、正気を取り戻すというくだりは大好きです。
あまりにも無敵すぎる様も逆に笑いを誘ったりして。

こんな面白すぎるアクションできる人、他にいますか?
いませんよ!
今できる精一杯のことをやった、というジャッキーの「酔拳2」が、僕は大好きです!

(あとアニタ・ムイとのコンビが最高で…彼女がもしまだ生きていて、ジャッキーと共演してくれようものなら、非アクションの良作映画も生まれたのではないかと勝手に思っております。初老のジャッキーとアニタ・ムイのドタバタコテコテコメディ、観たいですよ)




…ということなのですが、この次に「ポリス・ストーリー3」のスタンリー・トンと    再び組んで、現代のNYを舞台にした自警団映画「レッド・ブロンクス」でハリウッドに三度殴りこみ成功を収め、そしてハリウッドでアクションスターとしてきっちり印象付けた「ラッシュアワー」シリーズへと快進撃が続いていくわけですが…。

今考えると僕はこの「酔拳2」でジャッキーを一度卒業してしまったのかもしれません。
正直、熱は一旦冷めましたよ。これ以上はもうないな、と感じるものがありましたし。

また、あの燃え滾るような香港時代のイメージのジャッキーが、安い感じのハリウッド映画に収まってしまった様を、なんとなく冷めた目で見るようになってしまったんです。
作家性の強い映画(高校生になって覚えたキューブリックやゴダールやタランティーノ)をありがたがるようになって、ジャッキーの新作をスルーする年月が過ぎていきます。

またそれは、アクション映画というものが、マッチョな役者による限定された映画ジャンルではなく、例えば「ダイ・ハード」や「スピード」のようにアクションを得意としない役者が充分アクション映画の主人公として成り立つ、という裾野を広げ始めた時代の趨勢と重なるかもしれません。
アクション映画はシュワ(「トゥルー・ライズ」)やスタローン(「クリフハンガー」)やジャッキー(「酔拳2」)のものではなくなって、アクション映画の新機軸がどんどん生まれていったということですね。

そして今、ジャッキーが何を考えながら映画を作り続けているのか…そういうことを考えながら僕は日々過ごしているわけですが、デジタルリマスター&ブルーレイの新しい「酔拳2」を観て発奮して、未来永劫ジャッキー・チェンの映画道を応援したいと思いますので、これから飲みに行きます。
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