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その夜の侍の一のレビュー・感想・評価

その夜の侍(2012年製作の映画)
3.8
『葛城事件』の赤堀雅秋監督デビュー作

ひき逃げ事件の犠牲になった妻の復讐に燃える男と、その事件の犯人で刑務所から出てきた男を重厚なタッチで描く

堺雅人の空虚にまみれた怪演と山田孝之のクズっぷりにつきる

夏の暑苦しい空気感に汗ばみ小汚い堺雅人は、もはや完全に別人の域に到達しているほど病的で、恐怖すら覚える虚無感に包まれている
山田孝之は『凶悪』でのリリーフランキーさながらの狂気すら感じるサイコっぷり

妻を殺した加害者を憎み続ける夫や、人を轢き殺した加害者なのになんの悪びれる様子もなく、なんなら死んだ方が悪かったくらいのスタンスの加害者だったり、その時助手席にいて悪いとわかっていながら加害者に恐れ何も出来なかった同僚だったり、穏便に済ませようと加害者と上辺では仲良くする被害者の兄だったりと

ひき逃げの被害者と加害者がテーマですが、人間の本質をリアル描き出しており、様々なタイプの人間のリアルな光と影を描く事で物語に説得力持たせる

「プリンは食べないでね」と、もう二度と会う事のできない愛する妻の声を、留守番電話で何度も何度も繰り返し聞く哀しさに胸がぎゅっとなる

何度も安藤サクラが三日月を歌うシーンは不意に笑ってしまうのだが、詩を聞きふと我に返る
あまりにも苦しくて救われないが、僅かな光が見えた瞬間はジーンとしてしまった

堺雅人と山田孝之でなければ成り立たない作品と言っても過言ではないし、こんな堺雅人は初めて見た
堺雅人がこのような重々しい映画に出るのはかなり珍しいですよね
今や半沢直樹のイメージがあまりにも強いですが、今更ながら物凄い俳優さんだなぁと

間違いなく人を選ぶ怪作であり、すっきりすることもない重苦しいテーマに、観ていてどっと疲れるので評判が良くないのも理解できますが、個人的にはどんよりと人間臭くてかなり好みな作品でした
ハマるかは別としても『葛城事件』が好きな方にはとりあえずおすすめします🔥

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