たく

波紋のたくのレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
3.8
今まで観た荻上直子作品で一番良かった。精神の安定を失って離散した家族の心の遍歴を描いてて、ドロドロした人間ドラマが荻上監督っぽくないなーと思いながら観たんだけど、そこに展開するのはどこかほのぼのした空間。やっぱり人の持ち味は滲み出るものだよね。ラストシーンは必見。

東日本大震災をきっかけに、突然行方不明になった夫、水道水汚染の恐れから怪しい新興宗教の水にハマった妻、母親の異常を忌避するように九州に移り住んだ息子という離散家族の様子が描かれる。半年後に夫が突然帰ってきてからそれまで宗教で心の安定を保ってた依子の生活が乱され始め、息子が聴覚障害を持つ恋人を連れて帰省するに至って完全に立ち位置を失う。

タイトルの「波紋」は、まず依子がハマってる宗教のシンボルとして示され、枯山水が表す波、依子が通うプールの水面、そして依子たちの会話シーンの心象風景としての波紋(この演出がちょっとチープ)として登場する。水繋がりで、修が庭でホースの水を流しっぱなしにする演出も意図的に思えた。波紋は人の思いや行動が周囲に影響を及ぼすことを象徴しており、特に依子が宗教の教えに縛られてて、かと思えば職場の同僚の一言で簡単に教えを覆して夫への仕返しに走るという自己の不安定さが滑稽。木野花演ずるこの同僚が、依子を素の状態に戻してくれる唯一の存在なんだよね。枯山水が依子の牙城で、それを崩しに来るのが隣家の猫、同僚の亀、そして極め付けが夫。

ハンドクラップが題字に始まりBGMとして全編に流れるんだけど、これがラストシーンの依子の心の解放を示す伏線になっており、その演出の見事さに思わず唸ってしまった。ハンドクラップは、映画のタイトル出しで個人的に一番カッコいいと思ってる「ヒメアノ〜ル」でも効果的に使われてたね。
たく

たく