カツマ

神が描くは曲線でのカツマのレビュー・感想・評価

神が描くは曲線で(2022年製作の映画)
3.7
蜃気楼の上を歩く。それはユラユラとした実体のない真実の形。だからこそ、その真相は信じるか否かという曖昧な基準の上で判断される以外なかった。ある夜の惨劇は二転三転、捩れ続け、神の描いた曲線ですらなぞってしまう。その筆を持つのは誰?主観すら幻惑の対象となり、事件はどこまでも雨の夜の残滓と消えた。

数々の巧妙で複雑怪奇なサスペンスミステリーを世に送り出してきたスペインの奇才、オリオル・パウロ。彼が『嵐の中で』に続き、Netflixから送る長編作品が今作である。原作は1979年に発表されたトルクアト・ルカ・デ・テナによる同名小説から。主演に『インビジブル・ゲスト』でオリオル作品に参加したことのあるバルバラ・レニー。オリオルだけに今作でも最後の最後まで気の抜けないストーリー展開が待っている。タイトルの意味、グニャグニャに歪曲された時間軸、多くのパズルのピースを集めるだけでも大変な作品だ。

〜あらすじ〜

1979年、スペインのとある精神病院にて。ある雨の夜に一人の精神病患者が殺されるという事件が起きた。その事件を捜査するために精神病院内への潜入捜査を敢行した探偵のアリス・グールドは、パラナイア症候群という病気を偽り、まずは患者となって病院の内側から調べ上げることになった。
アリスは持ち込んだ本に忍ばせた捜査資料の確認から入り、依頼人の医師ドナディオとの記憶を反芻しながら患者たちに密かに聴き込みを始めていった。なかでも患者の中で明らかに正常と思われるイグナシオは何かを知っている様子。アリスは彼との接点を契機として、他の患者たちとも少しずつ親交を深めていった。
分かってきたのは院長のアルバが病院の改革として中庭への外出を認めていたこと。更には殺人があった雨の夜に行方不明になった患者がいた、という事実があり・・。

〜見どころと感想〜

物語は非常に複雑で、いくつかの時系列が混在しながら、秘密の焦点を絞り込んでいくかのような展開を持つ。オリオル作品らしく『大きな謎』が今作にも隠されているが、その謎の正体が判別しづらく、また展開も遅いため、長い上映時間を耐え忍ぶ必要があるだろう。伏線は巧妙に貼られているため、例えそこに疑念を感じても後半の回収部分に繋げるのは難しい。ちなみにオリオル作品にしてはやや鈍調な脚本、ハズレではないが、決して当たりでもない作品かと思う。

主演のアリスを演じるのは『マジカル・ガール』や『ペトラは静かに対峙する』などに出演するスペイン圏の主演クラス、バルバラ・レニー。陰鬱な作品への相性も良い俳優で、つまりは今作との相性も抜群である。物語の鍵を握るアルバ院長役には『誰もがそれを知っている』『ビューティフル』など名監督の作品にも多数出演の名優エドゥアルド・フェルナンデス。更に副院長モンセを演じるロレート・モーレオンによる心境の移り変わりの表出化にも要注目である。

オリオル・パウロといえばミステリの名手であり、ラストまで何が起こるか分からないという期待感はどうしても募ってしまう。だが、今作はオリオル作品の中ではややパンチ力が足りないか。決して詰まらなくはないが、彼ならばもっと面白くできるはず、、!というジレンマは残ってしまった。惜しいのは上映時間が長く、中弛みする時間があるということ。そのポイントさえクリアできればラストの伏線回収を十分に楽しむことができるだろう。

〜あとがき〜

コロナ療養中鑑賞二本目は昨年の暮れに配信スタートしたオリオル・パウロの新作となりました。監督が好きなので、今回も期待しての鑑賞でしたが、『ロスト・ボディ』や『インビジブル・ゲスト』ほどの感動はなかったかなと思います。それでもオリオルらしさは保たれているので、ファンならばチェックしておいて損はないと思います。

問題は謎がどこにあるのか??ミステリにありがちな謎のずらしがスムーズに行われていて、この原作を選んだ理由にも頷けました。ただ、もっとシンプルでも良かったかな、、。オリオル・パウロは今後も追いかけていくと思いますので、次回作以降も楽しみにしています。
カツマ

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