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ゴジラVSメカゴジラのHKのレビュー・感想・評価

ゴジラVSメカゴジラ(1993年製作の映画)
3.9
ゴジラ映画シリーズ第20作目。監督、特撮監督は前回に引き続き大河原孝夫さんと川北紘一さん。ゴジラ映画40周年記念作品にもなる。

この映画でついにメカゴジラをゴジラの敵として本格的に投入するというのは、いかにメカゴジラが子供たちから人気だったのかが一目瞭然で分かる。個人的には、後のミレニアムシリーズでの機龍に比べると、かなりスレンダーなVSゴジラに合わせて、こちらもスレンダーになっていますね。重装備もそこまでつけておらず、表面のごつごつ感もないから寂しい感じになってしまいます。

世界的にも有名なイラストレーターである生頼範義さんが描かれたポスターだと、もうあまりにもラスボス感がすごかったためその後の実写のメカゴジラを見て「あれ…」って思っちゃいましたね。

しかし、そのような不安は劇中における序盤のメカゴジラ登場シーンにおける伊福部昭さんの威風堂々とした音楽で一気にかき消されます。リフトアップするシーンなども含めてとてもかっこいいです。

今回も、ゴジラに対して生物学的なアプローチをするという製作側の意図が垣間見えます。その最たるは、劇中における托卵、ベビーゴジラの誕生などです。昭和ゴジラシリーズのゴジラにもミニラなんて怪獣がいましたけど、あれはゴジラがお茶の間のヒーローみたいな形のときに生み出された本当に「人間の子供」のようなアプローチであったのに対し、こちらは本当にトカゲが子孫を残すためにやっているように見えてなりません。

研究所に持ってかれた際に、三枝未希出身の超能力育成所の子供たちの助力のおかげで不思議な音波を流すことで卵が孵化します。これって胎動の音を聞いて赤ん坊が反応することと同じ原理なのでしょうか。いずれにしてもこれで卵がかえってしまい、刷り込みの影響かヒロインの五条梓をお母さんだと思ってしまいます。

そして、ゴジラはそんなベビーゴジラを連れ戻しにやってきます。自分の子供ですからね。「わいの子供を返せ!」って思っているはずです。そして、それは皮肉にも育ての親であるラドンもそうです。「私が育てた子供よ返しなさい!」そうとでもいうようにベビーが入っているコンテナを襲います。2匹ともただベビーを返してほしいと思い日本まで上陸したわけです。しかし、そんなことはできません。ベビーはヒロインの梓を母親だと思っていますから、例えどれだけ頑張っても二匹の想いは通用しないわけです。

そんな思いを利用してか、ベビーゴジラを囮に利用しておびき寄せ、メカゴジラで撃墜しようとする人間たち。小さい頃見たときは、中尾彬さんの演技もあったけど、人間サイドが酷い!糞野郎だ!と思っていましたが、思えば人類の事を考えれば怪獣殲滅を考えるのは当たり前なわけで、そのために莫大な予算をかけあんなゴジラの機械を作ったというのだとすると、彼らもまた人類の平和を守るために最善を尽くしているだけなのです。

いうなれば、ゴジラ版「96時間」とでもいうべきでしょうか。しかし、勧善懲悪などという訳の分からない二元論で構成されているわけではありません。

そして、ここからがトラウマになりましたが、腰部分に神経が集中している(第2の脳)ことが判明し、そこにアンカーをぶち込み、強力な電流を流し込み、見事ゴジラをぶっ殺します。ゴジラVSデストロイアでオーバーヒートして死ぬゴジラより、こちらの口を開けたまま無念の表情を浮かべて死んでいるゴジラのほうがトラウマでした。やっぱりゴジラ好きとしてはゴジラが人類の手で死んでしまう所を見ると物悲しくなります。

しかし、人類の勝利もつかの間、ラドンさんが最後の力を振り絞りゴジラさんに覆いかぶさり全ての力をささげます。この映画におけるラドンさんはゴジラのライバルというより、母親、そんな気がしました。子供の為に自分の命を「分け与える」これは後の「アンパンマン 命の星のドーリィ」におけるドーリィの行為にも似ているような気がします。(なんでゴジラとアンパンマンをくっつけているのかね。)子供のためであれば命ですら惜しまない「母親」の気力をここに見るのです。

ラドンの力を吸収し、元気100倍となったゴジラはメカゴジラを見事に完封します。小さい頃は、いっそ中にいる操縦士も全員死んでしまえばいいのにと過激なことを考えていました。今見てもゴジラのあの赤い熱線は凄まじいすね。

しかし、メカゴジラを倒したのもつかの間、ベビーに近づいてもベビーはゴジラに対して抵抗感を覚えているように初めは怯えます。自分の子供なのに父親だと認知されないゴジラの悲しい鳴き声が響きます。ヒロイン梓はせめてもの手向けの為に例の音楽を流し、彼らを見送ります。

個人的に言わせてもらえば、ゴジラ映画史上における真の最終回と言っても過言ではないでしょうか。ゴジラもラドンも人類も全員自分たちの最善を尽くした結果このような戦いを繰り広げてしまったのです。初めから卵を回収などしなければこんなことはなかったのかもしれません。そんな人類の愚かさとそれに巻き込まれながらも子供の為に命を懸けるゴジラとラドンの切実さが、この戦いに更なる悲劇性と無情感を漂わせます。

そういう意味でも、ゴジラに感情移入して見てしまっている人たちには、この映画をぜひとも見てもらいたいなと思っています。壮大なバトルと見せかけて、「一匹」の怪獣と「何千もの人類」の未来を託したメカゴジラの戦いに見事なまでに美しいテーマを載せて作っている名作です。

是非、その目で確かめてください。
HK

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