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君たちはどう生きるかのodamakinyanのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.8
劇場で鑑賞。前情報はほとんどなく、どのような作品か不安だったが、鑑賞後はすがすがしい気分になった。作画はかなり緻密な全編手書きであり、千尋の頃の濃密さが戻ってきている。作画がとにかくがんばっていたと思います。

以下ネタバレ。

前半はサスペンスもので、主人公と引っ越し先の屋敷の裏庭にある謎の建物の探索、またアオサギをしとめる話で、淡々と進む。主人公が戦時中の頃らしく手製の弓を作る場面は、父が竹とんぼを器用に昔竹からナイフで作ってみせたことを思い出した。戦前ぐらいの子供たちは、こうした手作業に慣れていた。しかし今の子供たちには反発も出るかもと見ていて思いました。継母である夏子との関係は、夏子の姉である母親と瓜二つという話で、父親の節操のなさというよりも、母との関係や距離感を表しているのかと思いました。つまり次男坊を妊娠中である母親との。深層心理的な話で、こういう考え方はフォン・フランツ女史の「昔話の深層」という本で読んだことがあります。その本にある通り、アオサギは童話におけるトリックスターであり、「忠臣ラスムス」という説話にある通り、主人公に最初敵対しあとで味方になるという家来であり主人公の分身にあたります。つまり主人公の内面の下位的心理の代弁者なのです。そのため主人公の心の叫びである「おかあさん、助けて」という声で鳴いたりするのです。この映画はそのような童話世界の進行に非常に忠実な映画であり、それを再現するように試みていると言えます。しかし、その存在理由などを考えだすと、現代人には魔法としか思えない描写が続きます。従って、童話であると納得できない人には、退屈で奔放すぎる話に思えてくると思います。

物語の後半はインコの国の話になりますが、このような別世界に旅する話は童話ではよくあります。主人公の大叔父の髪型はおそらく「ガリバー旅行記」の地面に張り付けられる巨人ガリバーの絵から考えられているでしょう。またインコに主人公が食べられそうになる場面は、宮沢賢治の「注文の多い料理店」からです。そのほかインコ大王が塔の階段を蹴落とす場面は「カリオストロの城」からでしょうし、女傑キリコの大海原での漁のシーンは「未来少年コナン」からでしょう。またキリコが門を閉める墓所の場面は明らかにベックリンの「死の島」の絵から木々の形が取られていると思います。そのほか私には確認できないほどの情報量で、さまざまな物件から引用されていると思います。

結局お話は大団円で終わり、「すずめの戸締り」のようなタイムリープものの扉も出てきます。ヒミは主人公の母親の昔の姿ですが、「バックトゥザフューチャー」のように、かすかな恋心でお話は終わります。活劇としてはどこを取っても申し分のないストーリーで、私には非常に楽しめました。個人的には「風立ちぬ」で終わるよりも、この映画がもしそうなってしまうなら遺作になった方がよかったと思っています。私は小さい頃セキセイインコを家で飼っていたことがあり、この映画のインコの描かれ方はそんなに嫌ではなかったです。彼らは非常にかわいいですが、飼い主の思い通りにはならないです。

最後に映画のタイトルについて解説いたしますと、図書館で借りた「スタジオジブリ物語」によりますと、吉野源三郎氏の本は宮崎監督が小さい頃に読んで感動した作品で、映画中にも登場しますが、タイトルを借用しただけで映画の内容とは無関係です。映画の内容は題名は明かされておりませんが、アイルランド人の児童文学の本からによると書かれています。しかしその本の内容のまま映画にはなっていないようです。
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