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ヒッチハイカーKAI:手斧のヒーロー、その光と影のRenのレビュー・感想・評価

3.0
劇中で某人が述べた「英雄視するならその人物を深掘りすべき」が全てだと思う。この時代の「素人」との距離感、周囲が無関係/無責任に他者の評価を上げることの危険性を描いたドキュメンタリーの佳作。

カイの異常性やセンシティブな犯罪の概要を伝えたいのであればニュース記事を纏めればいいのであって、敢えてSNS演出もマスコミの動向も取り入れている以上は上述したような社会批評性のある作品として観るのが妥当。もし今作の感想でカイについてしか触れていない人がいたら、流石にSNS世代の当事者意識が無さすぎて大丈夫かと心配になる。

最初からあいつが異常な人間なことくらい分かるだろ、アメリカどんな国だよと一笑に付してしまうのもまた鈍感だと思う。「なんかヤバそうだとみんなが気付いていながら素性も分からない素人を持て囃す」ネットの悪習は日に日に肥大化している。カイがたまたま最悪なケースだっただけで、これと相似形の事例は挙げればキリが無い。
変わった素人にインタビューしたりついて行くTV番組は常にこの危険性を孕んでいる。素人のインタビュー画像のミーム化もそう。

素人ではないけど、これを観て最近のりゅうちぇるの炎上を思い出した。未だに追撃のように「理想のパパみたいな顔しておいて〜」といった文法で批判している人を見る度にゾッとする。もはや彼の関係無いところでまで彼の発言を切り取って「さすがりゅうちぇる!」と称賛して(明らかに彼の活躍と比例していない速度で)褒めそやした民衆とマスの愚かさが、半ば無かったことにされているのが怖い(取り返しのつかないところまで放っておいたりゅうちぇる本人に落ち度が全く無かったとは言わない)。

この映画が描く問題意識もそれと同じものだと思った。元々人間は多面性のあるものだし、ましてただの素人の一面だけを見て安易に持ち上げ、それを何の精査もしないまま脊髄反射で全世界に称賛のコメントを発信するスピード感の虜に多くの人がなってしまっている以上、永遠に人類はSNSを乗りこなせないのでは?とすら感じる。

ここまで書いて映画本編に殆ど触れていないことに気づいた。でも今作を議題にして各自のSNS論と向き合うための映画だと思ったのでこれで締める。
Netflixにはネットを題材にしたドキュメンタリーがまあ多いので、色々見比べてみるのも面白いと思います。個人的イチオシは『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』。
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