しがい

世界残酷物語のしがいのレビュー・感想・評価

世界残酷物語(1962年製作の映画)
4.0
世界の知られざる文化を取材した教養ドキュメンタリー。ホラーのコーナーに置いてあったが、食人族的なモンド映画と思い込んではいけない。終始皮肉のこもったナレーションだけど、人間の生き方を非難するのでなく、冒頭で記されるようにありのままを映しだすというのが目的に感じるし、人間は元来残酷性のある生き物だというのが平凡な真実なのだと思う。

しかし、人間が弊害をもたらした動物たちの凄惨な現実には相当堪えるものがあった。
10年前の原爆実験の影響が残る島。雛が生まれることを信じて餌を探しに行き、卵を温めるために戻ってくる親鳥たち。しかし卵はすでに放射能の影響で命の核が死んでしまい決して孵ることは無いのだ。また、方向感覚を失ったウミガメが産卵の後、同じ理由で生き絶えたウミガメたちの屍を超えて内陸へ向かう映像。最期には、その死を待つ野鳥たちに囲まれながら、海に帰る幻影を見ているのか、必死に水かきの仕草をしている。
別の土地では、海での葬儀を執り行う習わしのために、人肉の味を覚えたサメによる被害が絶えないという。人食いザメに襲われた漁師はしかし、サメ漁による収入なしでは生活できず、そのためにサメ漁を続け運が悪ければ命を落としてしまう。ある時12歳の子供がサメに食われてしまったことで大人たちは朝から晩までサメを捕まえ、その口に毒ウニを押し込んで海に返すという復讐を行った。
……とんでもない映像である。それしかない。

生と死の礼賛、という意味でローマの教会墓地とドイツの酒場の対比も面白い。かと思えば、シンガポールの“死者の家”ではハゲタカのように人の死を今か今かと待ち望んでいる人間の姿が映し出される。

最後の映像は、カーゴ機を天国からの飛行機と信じ、白人から取り戻そうと考える未開人が、村を捨ててまで自分たちの飛行機を待ち続けるというもの。文明人としては持たざる未開人こそ素晴らしい生き方をしているのではないかと思いがちだけど、結局は人間、無い物ねだりはお互い様なのかもしれない。

映画として面白いかというと分からないけど映像はとても貴重だし編集や構成が素晴らしいと思うのでこの評価。
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