垂直落下式サミング

チップス先生さようならの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

チップス先生さようなら(1939年製作の映画)
3.8
英国の全寮制寄宿学校に長年勤めて、生徒たちに「Mr.Chips」と慕われてきたラテン語教師チップス先生の生涯を描く感動作。老いたチップスが自身のキャリアを振り返り、彼の教員生活の思い出が物語となってよみがえる。
新任教員時代の失敗。農業革命による人工増加の光と闇。多くの教え子を失うこととなる大戦への突入。どうあっても教え子の人生の傍観者でしかない教師の目線で、18世紀後半~19世紀初頭の変わり行くイギリスを描いたヒューマンドラマだ。チップスの新任時代~晩年まで同一役者ロバート・ドーナットが演じているのにも注目。
チップス先生は生徒たちにとって心から尊敬する師であり友人、好好爺であると同時に、彼の前だと自然に背筋が伸びてしまうような威厳も保ち続ける。学校教育の現場には教育者という立場を損なわず、時には寛容に、時には厳しく、そっと生徒の傍らに寄り添い導いてくれる彼のような人が必要なのだろう。金八や鬼塚のような熱血ばかりじゃあさすがに疲れてしまう。
思い描いた教員になれなかった中年期のチッピングが、明るく社交的な妻キャサリンとの運命的なめぐり合いをきっかけに、クソ真面目で融通のきかない「仏頂面のチッピング」から、誰よりも生徒に慕われる「チップス先生」へと成長していく姿が感動的。やり直しのきかないのが人生だけど、振る舞いひとつ変えるだけでいい方向に舵を切ることはできるのだということを描いたハートフルでポジティブな物語でした。そんなわけで、僕にもこんな未来が待っていたらいいなと思います。