るるびっち

チップス先生さようならのるるびっちのレビュー・感想・評価

チップス先生さようなら(1939年製作の映画)
4.0
子供時代は短く、老人の時代は長い。
祖父・父・息子と三世代の一族の子供時代を教師として見送るチップス先生。不死身かというほど長生きだ。子供だった生徒の孫が、まるで生まれ変わりのように入学してくるまでの長い歳月を先生として過ごしているのだから。

真面目一筋のチップス先生は、教師として着任当日に生徒にからかわれて、まともに指導できない。それを校長に指摘されると、今度は厳しくし過ぎて大事なスター選手の大会出場を阻害してしまい生徒たちに恨まれる。バランスの悪い大人であり、人としての幅がない。
真面目で誠実なのは良いが、バランスが悪くて出世も遅れる。
そんな彼に人生のバランスを教えるのは、山で出会った美女だ。
死人も出るような高山で、まるでハイキングに来たような顔でサンドイッチを頬張る破天荒な女性。
彼女が妻になり、真面目一筋のチップス先生にユーモアが生まれる。
厳しいだけでは人はついてこない、ユーモアこそが厳しい現実を救うのだ。
ちなみにチップスというのは妻が彼を呼ぶときの愛称で、本名はチッピング という。

そんな人生を変えるほどの最愛の人に不幸が起こる。
人生は喜びだけではなく悲しみがつきまとう。
若い頃には、悲しみや不幸を嫌い、人生がラクで楽しいだけなら素晴らしいのにと思いがち。
だが、悲しみや不幸こそが人の幅を広げるのだ。
チップス先生が人々から慕われる教師になれたのは、妻にユーモアを教えて貰ったからだけではない。悲しみが彼の人間としての器を大きくしたのだ。

成功だけの人生など、確かな重みのない安物だ。
だから今苦しい人は確かな器になるため、焼き物でいえば火を入れている状態と思えばいい。高温で焼かれるのは苦しいが、美しい確かなものがきっと出来上がる。素晴らしい人生を約束されているのだから嘆くことはない。
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