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赦しのbluetokyoのレビュー・感想・評価

赦し(2022年製作の映画)
3.1
「対峙」とテーマが同じで、「対峙」は妙に完成度が高いしなあ。「赦し」の方は妙に緩い感じなのだ。被害者の父親は髭面でいつもうまそうに酒を呑む。辛そうな酒ではなくうまそうな酒なのだ。母親は離婚しているが旧夫(つまり被害者の髭面父)ともセックスしてしまう。母親も緩いのだ。被害者側がユルユルなのに対して、加害者の夏奈は、妙にストイックだったりする。

「対峙」が、被害者側が加害者側を「赦す」映画なわけだが、この映画は、そんなに単純ではない。もちろん、被害者側である両親が、加害者である夏奈を赦すのであるが、むしろ、夏奈が、被害者側を赦してるようにも思える。とくに父親は、被害者という立場で、夏奈に敵意、憎悪、挙句の果ては殺意まで向けるわけだ。聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせかけ、こいつは生きている資格はない、いや、積極的に殺す方がいい、とマジで考えている。そういう一方的な憎しみを一身に浴びせられながら夏奈は、相手を赦すのである。

それにしても、原題の「DECEMBER」ってどういう意味なんだろうか。最後の月ということ?

一番よかったシーンは、殺された恵未が、髭面父に寄り添うところだ。父親の心に宿った、というべきか。それで髭面父は憑き物が落ちたように、日常を取り戻していく、まあ、そこまで描いてはいないけど、そうなると思える。

法廷映画だと、倫理や論理、正義、そういうのがぶつかり合い、きりきりとした場面が続きそうなのだが、この映画は、髭面父が、四六時中、いろんな酒を呑むシーンが多用されている。裁判所のシーンよりも、むしろ、裁判所の外のシーンが多い。弁護士は、カネのことばかり(私は正当な報酬をいただければそれでいいんです、とは言うものの)で、妙に、ノリノリなのである。裁判官は妙に笑顔を見せる。
つねに厳しい表情をしているのは夏奈だけなのだ。

いまの夫が、旧夫、髭面父のところへ行って、ああだこうだと苦言を呈する(母親が浮気しているので当然なんだけど)ところは、殴り合いでも始めるのかと思いきや、そんなことはない。なんとなく、いまの夫は、帰ってしまう。そういう緩いところもいいな、とは思った。

いじめに対して、いじめられている被害者が、その主犯を、殺害した場合、正当防衛になるのだろうか。判例があるのかないのかわからないけど。間違いないのは、殺されたとしても、その主犯は、罪に問われることになるだろうな。そこらへんの全体的な裁判はどうなるのか、考えなければならないと思う。
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