♪ 絡みつく 凍りのざわめき
殺し続けて 彷徨う いつまでも
いわゆる“酸素が足りなくなる”系。
…だと思いきや、なるほど。ある意味、盤外から殴られる作品…だったんですね。観客の口を如何に広げるか…それだけに特化した作品とも言えましょう。
勿論、答えは目の前にあったんです。
それこそ、裏庭に咲いた七色の花どころではなく…まさに目の前。手を伸ばさなくても掴むことが出来る距離感。そこに真実は眠っていたんです。
でも、その事実に気付かないんですよね。
人間は“見たいものしか見ない”と言いますけど、それは映画においても同じ。追い詰められていく主人公に心を重ねてしまったときに…既に視野は制限されていたのでしょう。
しかも、見事なのが縦糸。
黒人差別を臭わせるような展開が散りばめられているんです。この辺りの選択も巧みですよね。昨今は「差別」に過剰反応するのが流行りですからね。目くらましとしては十分でした。
あとは、先入観を利用した節もありますね。
世の中に存在する殆どの映画は“作り物”ですから。メルヘンやファンタジーを否定しながらも、その枷に囚われているのが映画の限界。
だから、一点突破しかないんです。
凡ての要素が虚構から脱することはできない…そう判断し、大切なところだけを現実に重ね合わせる…そんな製作者の判断が映画の価値を高めるんです。
そして、本作はそれを成し得た…と思います。
勿論、それが面白いかどうか…は別の話。
不快に思うかもしれないし、呆然とするだけかもしれない。その反応は人それぞれ。ゆえに映画も世界も簡単には語れない“深み”があるんですけども。
まあ、そんなわけで。
個人的には“最低の価値観”を描いた作品。
舞台がイギリスなので、向こうの価値観に詳しいほど楽しめる気がしますが…分からなくても大丈夫。殴られた感覚は味わえると思います。自己責任に基づいた選択で臨んでいるのなら…ですけど。