こたつむり

彷徨いのこたつむりのレビュー・感想・評価

彷徨い(2023年製作の映画)
3.4
♪ 絡みつく 凍りのざわめき
  殺し続けて 彷徨う いつまでも

いわゆる“酸素が足りなくなる”系。
…だと思いきや、なるほど。ある意味、盤外から殴られる作品…だったんですね。観客の口を如何に広げるか…それだけに特化した作品とも言えましょう。

勿論、答えは目の前にあったんです。
それこそ、裏庭に咲いた七色の花どころではなく…まさに目の前。手を伸ばさなくても掴むことが出来る距離感。そこに真実は眠っていたんです。

でも、その事実に気付かないんですよね。
人間は“見たいものしか見ない”と言いますけど、それは映画においても同じ。追い詰められていく主人公に心を重ねてしまったときに…既に視野は制限されていたのでしょう。

しかも、見事なのが縦糸。
黒人差別を臭わせるような展開が散りばめられているんです。この辺りの選択も巧みですよね。昨今は「差別」に過剰反応するのが流行りですからね。目くらましとしては十分でした。

あとは、先入観を利用した節もありますね。
世の中に存在する殆どの映画は“作り物”ですから。メルヘンやファンタジーを否定しながらも、その枷に囚われているのが映画の限界。

だから、一点突破しかないんです。
凡ての要素が虚構から脱することはできない…そう判断し、大切なところだけを現実に重ね合わせる…そんな製作者の判断が映画の価値を高めるんです。

そして、本作はそれを成し得た…と思います。

勿論、それが面白いかどうか…は別の話。
不快に思うかもしれないし、呆然とするだけかもしれない。その反応は人それぞれ。ゆえに映画も世界も簡単には語れない“深み”があるんですけども。

まあ、そんなわけで。
個人的には“最低の価値観”を描いた作品。
舞台がイギリスなので、向こうの価値観に詳しいほど楽しめる気がしますが…分からなくても大丈夫。殴られた感覚は味わえると思います。自己責任に基づいた選択で臨んでいるのなら…ですけど。
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