囚人13号

書かれた顔 4Kレストア版の囚人13号のレビュー・感想・評価

4.0
書かれた顔とは坂東玉三郎が女形を演じるため化粧をし、舞台上では外見(描かれた顔)のみならず所作までも完全なる女性として振る舞うこと(演目に忠実な「書かれた」顔)。

化粧を落として男の素顔が顕となるまでの過程は切除され、逆に男が慣れた手つきで女性へと変貌していく様は接写でどの過程も見逃すまいと殆ど監視に近いかたちで見つめている。

監督の言う日本で発見した奇跡とは恐らくこの一瞬の性転換だろうが、ドラマパートの失策はシュミット=外国人による歌舞伎に対する意識の錯誤、玉三郎は女形であって女優ではないと気付けなかった事に由来する。
故に直後、大雪の中反り返って演じる『鷺娘』が狂気じみて美しく感じるのは純粋な肉体的驚異ではなく歌舞伎が映画から完全に解放されているからで、しかし舞台にカメラを向けるという意識は日本人よりも優れていた。

無機質に全景を捉える退屈極まりない画角に甘んじることなく、古典芸能を照明とショットを駆使した光の運動へ再構築してしまう試み。
囚人13号

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