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幻影は市電に乗って旅をするのsonozyのレビュー・感想・評価

4.0
引き続きルイス・ブニュエルを英語字幕で。
舞台はメキシコシティ。
「この映画は、貧困に苦しむ庶民の生活を描いた些細な逸話に過ぎない。」的な冒頭のナレーション。

主人公は市電(路面電車)の運転手タラハスと整備士カール。タラハスの妹ルピタ(『昇天峠』のラケル役のメキシカンSexyなリリア・プラド)。そして、二人が愛する市電133号。

タラハスとカールが修理した市電133号は、上層部の判断で廃車が決まる。
二人は愛着もありまだ使えると訴えるが受け入れられずはずもない。

その日は職場のパーティ。酔っ払った二人は、夜中勝手に133号を動かし、パーティを終えたルピタや楽団メンバーなどを帰宅のため乗せる。
一人の女性を屠殺場(食肉加工所)の近くで降ろすと、そこで働いていた人々が、肉やら何やら持って乗り込んできて、彼らも送り届けるハメに。。

酔ってる二人は133号の中で寝てしまい、翌朝、早く車庫に戻さないとクビ&警察沙汰になる!と慌てて戻そうとするが・・・

『昇天峠』はおんぼろバスでしたが、本作は廃車寸前の市電と、ハチャメチャながら人間味あふれる人々が魅力。

搾取される労働者たち。
市電の運転手を健康上の理由でクビになった老人。
母がいない事を茶化される少年。
苦しい生活環境で値上げする商店に激怒する女性たち。
闇商売で稼ごうとする怪しげな男たち。
屠殺場で夜遅くまで働く、たくましい人たち・・・
メキシコシティの社会問題を織り交ぜながら、リリア・プラドのSexy要素も当然入れつつ(笑)の楽しい作品。

原題も邦題も「ilusión/Illusion(幻想/幻影)」という言葉が使われてますが、幻覚・錯覚などが現れる話ではありません。
主人公の彼らにとっては、ある一日の幻覚的な経験(記憶)になるのかも知れませんね。

「ほとんどの人には無視され、忘れ去られるような、この街の何千もの物語のひとつだが、彼ら(主人公)にとっては強く記憶に残るものだ。」的なラストのナレーションも沁みました。
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