O次郎

地獄の貴婦人のO次郎のレビュー・感想・評価

地獄の貴婦人(1974年製作の映画)
3.7
『悪魔のような女』+『冷たい熱帯魚』。
パッと見、いわゆるファム=ファタールものっぽいが、その実は極めて割り切ったグループ犯の保険金詐欺のお話。
ドイツからの移民の美人姉妹が悪徳弁護士の男と組んで、時には死期の近い老人と結婚して死を誘い、時には金持ち夫婦を殺して硫酸で溶かし、死の病に犯された孤児の娘を引き取る。全ては金のために。

ストーリーだけでいうとスリラーなのだが、その実、紛うことなきブラックコメディ。
基本は無音ながら、要所の殺人や籠絡のシーンに於いて巨匠エンニオ=モリコーネの陽気でコミカルな音楽が流れるため、そのミスマッチぶりがなんとも言えぬユニークさになっている。いわば、キューブリック監督作の『時計じかけのオレンジ』での主人公と女の子二人との3P場面でトルコ行進曲が流れた場面のような不思議なユーモアである。

犯罪としては穴が多く、完全犯罪には程遠いので、クライムサスペンスを期待すると肩透かしを食らうが、このストーリー全体を通して流れるあっけらかんとした明るさとシニカルさを楽しむのが吉かと。
ちなみに、エロを期待する向きにもその方面は意外とソフトなので注意が必要。
ラストは突然の悲劇の後にまたカラッとした開き直りを見せて終わるので、日本人的情緒で見ると面食らう。
取り敢えず、マスターキートンがこの場に居ればすぐに悪事を暴いてくれたに違いない・・・。
O次郎

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