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ツィゴイネルワイゼン 4K デジタル完全修復版のzhenli13のレビュー・感想・評価

5.0
この映画を観つづけてよかった。この映画のある世界に生きててよかった。清順監督ありがとうございます。
私にとって無駄なショットはひとつもない。『悲愁物語』を反復するような「鱈も干鱈も鱈」と裸に荒縄の原田芳雄が歌う奇っ怪な砂丘のシーンすらも、すべていとおしいしすべて目が離せなくて涙が出る。釈迦堂の切り通しへつながるだらだら坂を藤田敏八の青地とともに上り続けるような長い長い時間も、鶴岡八幡宮の太鼓橋のシーンまで来て、ああもう終わってしまうと残念に思う。

4K修復版はこの映画を愛する人たちの気持ちを汲み取っているかのようで、ざらっと溶け入るような暗さが生かされていると思った。ソフトフォーカスによる大谷直子の横顔の凄絶な美しさも原田芳雄の左眼に落ち窪む影も堪能した。アフレコではっきりと手前に置かれる台詞が心地よく、内田百閒先生のさまざまな短編を綯い交ぜにした田中陽造の脚本の素晴らしさもあらためて実感した。
そして『ツィゴイネルワイゼン』は藤田敏八の青地・原田芳雄の中砂のいじらしいバディ映画であり、序盤の「ほとけが上がったぞー」のくだりからして、素晴らしく動的なアクション映画だと思った。
それにしてもひどくモノ扱いされる、白く美しい大谷直子は魂の容れ物、死にいたる魂の容れ物のようであり、しかしここにいる誰もが例外なく死にいたる魂の容れ物であることを、つねに困惑の眉根に広く鋭角な肩をいからせる観察者 藤田敏八の青地の姿にもはっきりと見るのだ。

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