まりぃくりすてぃ

安宅家(あたかけ)の人々のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

安宅家(あたかけ)の人々(1952年製作の映画)
4.9
これは凄い! ドストエフスキーの『白痴』を頑張って読むよりも美(うま)しい二時間弱を過ごせた!

立ち上がりの十数分間は、映画館内が無法地帯みたくガヤガヤしてたことに加えて人物相関図や事情の入り組み具合がフクザツそうで、乗れなくて、「これは乙羽信子さんの百万$のえくぼを拝むだけの映画か……」と諦めかける。知的障害者役をコンナモンデイイカナァと演じてみる人を眺める時にありがちな惑いから、ムイシュキン公爵でもない船越英二さんに対しても「誰かほかの男優ともチェンジ可能だよね(ボクじゃなきゃダメナンダ感なさすぎ~)。奇声ぐらい上げるべき」と不信。

しかし! 法事から祇園の芸者云々のシークエンスで「これハイレベルな作品なんだ」と気づかされ、3トップ(田中絹代さん・船越さん・乙羽さん)のかけがえのなさ(もうゼッタイほかの役者とはチェンジありえず!)が私の中でどんどん本物になってきて、、、、、ウルトラキャンディーな乙羽さんの大人でもある善良さはそのままに、絹代さんの(逆に若い)痛みがグリグリと来てしょうがなく、演技してる姿だけで∞に尊敬しちゃえるこの二人は女優の中の女優! そしてそして前述の、ロシア文豪にも尻上がり勝利かもの船越さんの真っ白さ♡♡♡

一部の男優さんらは悪役を実直に引き受け、端役ピエロにすぎなかったはずの妹役(三條美紀さん)まで終盤に“女同士”感溢れる見せ場を示してくれた。女性原作の女性脚色だから女性目線が行き届いた、というわけでは必ずしもない。いわゆる女流小説にも女性監督映画にも嘘臭すぎる悪作は星の数ほどあるもん。
何というか、「私がこの映画に共感できた」じゃないんだよね。「この映画にのめり込んでる私に今、映画の方が共感してくれてる」っていう安心感が∞だったんだよ! このフェミ感覚、きっと男の人たちもわかってくれるよね。

ラストのラスト、友愛オンリーの義妹(乙羽)にああ言われて嬉しいばかりではなかったはずの長男嫁(絹代)、の心をいろいろ想うと、『楢山節考』を忘れさすぐらいに本作の絹代さんは苦の闇の自然表現が特上すぎて敬意でやっぱり私ひれ伏す。────この女優対決は邦画史に永遠に残ることでしょう。
犬にも助演賞あげたい。豚らの面構えも万$級。(でも、原作世界でニオイはどうだったんだろ。)