足立正生監督(当時22歳)が日大芸術学部「新映画研究会」で制作したシュールな処女短編。全日本学生映画祭大賞を受賞。助監督は大学の後輩だった沖島勲。16mm・モノクロ。
ある寒村。葬式が行われる中、一人の男が土着的な因習から逃れようと反抗を繰り返す。しかし米と椀を司る白いローブの巫女を中心とした農村共同体に阻まれる。。。
足立監督の初期作のビデオが手に入り、ずっと観たかった本作をようやく鑑賞。想像とは違う作風で興味深かった。
廃れた神社と農村ロケーションの中で進行する土着的な葬いの儀式。はみ出し者の男が巫女に襲い掛かる。単純に解釈すれば、日本帝国主義の頂点に位置する天皇に“孤立した精鋭”が個的テロを仕掛ける寓話となる。60年安保闘争の敗北直後に、若き足立監督が既に自身の中心テーマを確立し表現していた事に驚いた。
台詞が無く映像と前衛音楽で描かれている。画作りは後の足立監督の商業映画よりも丁寧かつ拘りが感じられた。鳥居や神社のお札、葬式行列といった土着的な記号が散りばめられ、映画進出以前の寺山修司が本作を高く評価したことも頷ける。一方、モノクロで描かれる怪しげな宗教儀式は見方によっては日本的ゴシック・ホラーの趣が漂っていた。巫女の真っ白な顔はジョルジュ・フランジュ監督の「顔のない眼」(1959)を連想させる。後の「堕胎」(1966)も医療系ホラーの一種として観ることもでき、足立監督には政治的側面とは別に耽美ホラー美学への嗜好があった可能性もたまに入れておきたい。
本作と前後して足立監督と日大新映研は学外での映画運動の場としてVAN(ヴァン)映画科学研究所を設立。赤瀬川原平、オノ・ヨーコらと交流しつつ次作「鎖陰」(1963)の準備に取り掛かる。
※アテネフランセ公開時の本作の解説
男は母を惨殺するが、村人は素知らぬ顔。葬儀の中、尊属殺人を認められぬ男は妹を強姦するが、儀式は挙行される。60年安保の挫折を寓意する土俗的不条理劇。