2024.10.02
(多分)予告を見て気になった作品。
台中にて昔ながらの理髪店を営むアールイ。
3人の子どもたちはそれぞれ独立していたが、アールイは長年の常連客の相手をしながら理髪店を切り盛りしていた。
スタイリストの長女・シンは台北での仕事が忙しく、美容師の次女・リンは子どもがまだ小さいのに夫のチュアンと離婚し、常連だったお客さんを人気美容師にSNS繋がりで取られてしまい、長男のナンは太陽光パネルの設置など、地道にではなく一気に稼げる方法を模索しては母に提案している。
しかしそんな子どもたちとは対照的にアールイはお客さんの“いつも通り”の注文を“いつも通り”受け、“いつも通り”の日々を過ごしていた。
そんなアールイが、最近来店していない歯科医師に電話をかけてみると、寝たきりになっていることを知り、子どもたちに行き先を告げず、『本日公休』の札を下げて一人出張散髪に向かう。
こーれは好きな雰囲気の作品ですね。
ドラマティックな展開があるわけではなく、緩やかに進んでいくストーリーの中で、細かいセリフや描写を回収しつつ、時々クスッとさせる場面でメリハリも効いていました。
序盤から描かれていたのは、男と女性、働き盛りで夢を追う若者の変化と、仕事や子育てがひと段落してそれまでの習慣を大事にする高齢者、それぞれの対比だったかと思います。
夢を見るわりに理想を追い求めるよりも安心する美容師に頼み続けるような男たち、現実を見つつもこのままではダメなのではと自分に言い聞かそうとする女性たち。
長い目で見ることよりもその時の感情を優先して行動する若者と、地道に働き続けることが大事だと言うけど、頭でっかちで新しい行動を起こそうとしない高齢者。
どの登場人物の気持ちもよく分かるように描かれていたので、どれが良いとも悪いとも言えない、強いて言うなら良いとこ取りができないものかと思う、良い意味でやきもきした感じになりました。
作品を通して描かれていたテーマとしては利害と感情、そして家族と時間だったかと思います。
長年の付き合いを大事にするのか、それに関わらず費用を請求するのか。
今作では、情熱や人との繋がりなどの気持ちの積み重ねが生きていくのに必要なお金となり、お金で繋がっていたとしてもその繋がりが続けば一生ものの付き合いになることが描かれていたと思います。
そして、人に頭がある限り理髪店は廃業しないのと同じように、人が生きているということは人それぞれに家族がいるということで、平等に時間は流れている。
色々な家族の形があるように、理想通りにできない髪型もこだわりの髪型もあり、家族が未来へと繋がっていくことがあるように、髪が薄くなったり白くなったりと、作品の舞台となった理髪店、そこで家族として過ごしたアールイたちととてもマッチしたテーマのように感じました。